「そうおっしゃっていただけるお気持ちは、大変ありがたいのですが……。」
「──何よ、いいじゃない。
話だけでも聞いてみれば。」
「アシュリー!!」
「アシュリーさん!?」
2階から降りて来て、突如話に加わった声はアシュリーさんだった。
「あ、申し訳ありません。これは私の孫娘でして……。」
「ジョージは私の命を救ってくれた恩人よ。私は話を聞いてみたいわ。」
「この間、お前をテネブルから救ってくれた人間の冒険者とは、ジョージ様のことだったのか!?」
「ええそうよ。伝説の勇者の仲間であるオンスリーは、孫娘の恩人の提案を、話も聞かずに追い返すような、狭量なコボルトではない筈だわ。そうよね?おじいちゃん。」
俺は展開についていけず、目をぱちくりとさせた。
「重ね重ね、ジョージ様にはなんと非礼を詫びればよいか……。孫娘の恩人に対し、あのような失礼な態度を取ってしまい、本当にお恥ずかしい話です。」
「頭を上げて下さい、パーティを組んだ仲間を救うのは当然のことです。アシュリーさんにもたくさん助けていただいていますし。」
「ジョージ様は本当に懐の広いお方だ。」
オンスリーさんは涙ぐみそうになっているが、俺は大げさな気がして気恥ずかしい。
「さあ、聞かせて頂戴、ジョージ。
あなたは人間とコボルトの架け橋に、いったいどんなことをしたらいいと思っているのかしら?」
アシュリーさんが期待に満ちた目でこちらを見てくる。
「──店をやってみる気はありませんか?」
「店?」
「先日こちらで購入させていただいた、精霊魔法の付与された魔宝石は素晴らしいものでした。まずそれだけでも、コボルトの店でしか買えない人気の出る商品だと思います。」
「まあ……確かに、それはここでしか買えないものね。」
アシュリーさんがうなずく。
「それと、先程オンスリーさんに出していただいたお茶と、その器です。」
「お茶と器?」
「これはここでしか採れないお茶ですよね?そしてこの陶磁器の器。口当たりがなめらかで食事の邪魔をしない感触。またこの塗りと模様は大変素晴らしいものです。
この技術は必ず貴族にも受け入れられるでしょう。」
オンスリーさんとアシュリーさんが顔を見合わせる。
「コボルト独自の料理があれば、それらを出してみるのも面白いと思います。
まずは文化を知って貰うことから始めませんか?コボルトがどれほど知的な文化遺産を持つ種族であるかということを。」
「だがしかし……。」
「店を出すお金は俺が援助します。
宮廷に勤めている知り合いもいるので、店を出す場所の相談にも、乗ってくれるかも知れません。」
「……良いと思うわ。私はやってみたい。」
「アシュリー!」
「私たちは人間に見下される下等な生き物ではないのよ。
それを人間が知らないだけ。
私は将来自分の子どもに、私たちは誇れる種族であるということを、内外に知らしめた状態で生まれさせてあげたい。」
「アシュリー……。」
孫娘のその思いに、さすがのオンスリーさんも感じるものがあったようだ。
「分かりました、一度、皆に話をしてみましょう。よい返事を貰えるかまでは分かりませんが……。」
「分かるわ、若者はきっと全員賛成よ。
ねえジョージ、料理を作ってくれない?」
「料理?」
「みんなを集めて、ジョージの料理をふるまうの。そこで今の話をしてしまうのはどうかしら、親睦をかねて。
大勢の分を作るなら、みんなで一緒に作ってもいいわね。砕けた空気の方が、話がしやすいと思うわ。」
「もちろん構わないが、いったい何を作ればいいんだ?」
「そうね……。
私たちの食べ物と、ジョージたち人間の食べ物を、両方ふるまうのがいいと思うわ。
私たちの料理は私が教えるから。」
「ああ、いいな、それは俺も知りたいし、食べてみたい。」