「そういえば、先程集落の様子がおかしかったのですが、ひょっとして、俺が1人で尋ねて来たからなのでしょうか?」
俺は気になっていたことをオンスリーさんに尋ねた。オンスリーさんはハッとした表情になったあとでうつむいた。
「はい……。アスターさんたちは、何度もこちらにいらしていますし、討伐した魔物を分けてくださることも多く、我々も信用していますが、それ以外の人間は、我らに害をなすものも多いのです。」
そうだったのか。
「魔物の集落から金品を奪っても、罪に問われることはありません。
我らは既に魔物ではありませんが、まだまだ偏見が根深く、集落を襲った人間に対し、役人がおめこぼしをするのです。
それであのように……。
大変申し訳ありませんでした。」
「いえ、そうした事情も知らず、1人で来てしまったこちらが悪いのです。
気になさらないで下さい。」
頭を下げるオンスリーさんに、頭をあげるよう促す。
色々な事情のある場所なのだ、もう少し事前に調べておけば良かった。
申し訳無さそうな俺を見て、オンスリーさんが恐縮する。
「ジョージ様は我らと同じく、ドライアド様の守護を持つお方。ドライアド様は純粋で心優しく、他人に危害を加えるつもりのない存在にしか、味方をしないものと言われております。今後ジョージ様を敵視するものは、この集落にはいないと言っていいでしょう。」
「そうなのか?カイア。」
そう尋ねる俺に、不思議そうに首をかしげたあと、ニコーッとするカイア。
「名付けをされたのですね。」
オンスリーさんが驚いた表情で俺を見る。
「何かまずかったですか?」
「──いえ、逆です。
精霊や妖精は、生涯付き従うと決めた存在以外からの名付けを受け入れません。
カイア様が名付けを受け入れていらっしゃるということは、ジョージ様を守護しつつ、ジョージ様の庇護下に入ったということにほかなりません。」
「ええと?つまりどういう……。」
「簡単に申しますと、ジョージ様の命ある限り、カイア様はジョージ様とともにあるということです。
また、ジョージ様が生まれ変わったとしても、その魂を探して目の前に現れることでしょう。よほど気に入られたのですね。」
オンスリーさんがニッコリする。
「精霊は古来より、信仰心と愛情を元に力を得ると言われております。この大きさでカイア様は既に力を使われた。
ジョージ様がカイア様を大切にされているのが伝わっているのでしょう。」
「カイア……。」
言葉が通じているのか、不安に思っていたが、気持ちはしっかり伝わっていたらしい。
泣きそうになりながら微笑む俺に、キャッキャッと無邪気に笑うカイア。
「そういえば、人間がこちらに来るのが珍しく、来る場合、集落を襲撃する目的の人間の可能性が高いということは、みなさんあまり人間と交流されていらっしゃらないのでしょうか?冒険者ギルドからは、友好的な種族であると伺っていたのですが……。」
「はい、冒険者ギルドの方々とは、友好的に対応させていただいておりますが、それ以外の人間となりますと……。
基本的にこの集落の中ですべてを完結しておりますので、人間の世界に買い出しに行くようなこともありませんで……。
まれに冒険者組は、外で人間と交流がありますが。」
「そうなんですね……。」
交流がないとなると、双方に誤解があるまま、それを解決する手段もないわけか。
「例えばなんですが、もし交流する機会があるとすれば、してみたいと思いますか?」
「と言いますと?」
オンスリーさんは首をかしげる。
「人間と交流する第一歩を、踏み出してみるお気持ちはありますか?」
オンスリーさんは明らかに逡巡した。
「若いものはそうした考えのものもいるようですが、我々はこの歳になりますと……。」
まあ、そうだろうな。人間も、長年培った価値観を変えるのは難しい。
「もちろん、時間はかかると思います。
ですが、集落を襲われても、役人が犯罪者の味方をするという状況は異常です。
俺はそれに我慢がなりません。」