「ひょっとしてその時、何らかの聖なる力が働いて、コボルトを瘴気から守ってくれるようになったのではと……。
その当時のことを知る人がいれば、教えて欲しいと思っています。この子を、瘴気の影響から守りたいのです。」
俺はアイテムバッグから、カイアを取り出して膝に乗せ、ララさんに見せた。
「人間が来ているだと!?」
「どいつだ!」
「また俺達の集落を荒らしに来たのか!」
ドヤドヤという声と足音とともに、大勢のコボルトの老人たちが、冒険者ギルドの入り口から、中に入り込んで来て俺たちを睨む。
「うわっ!?なんだ!?」
突如として眩しい光に視界を奪われ、コボルトの老人たちがそれに怯む。
カイアが俺を守ろうとするかのように、なにかの光を放ち、俺の前に小さな枝を広げて泣きながら膝の上で立っている。
その姿を見たコボルトの老人たちが、一斉に驚愕した眼差しをカイアに向けた。
「ド……ドライアド様!!」
コボルトの老人たちはカイアに平服する。
「ドライアド?この子はトレントでは?」
「いえ、似て非なる存在です。
トレントは魔物ですが、ドライアド様は樹木の中の精霊王です。」
「精霊王!?」
「このコボルトの集落は、ドライアド様に守られ、ここまで発展してまいりました。
我らの神はドライアド様。
その子株でいらっしゃいます。」
俺が倒したトレントの子どもではなかったということか?
「そうか……。お前の両親を殺したわけじゃなかったんだな。良かった……。」
俺はそっとカイアを抱きしめた。
カイアは泣きながら、両枝をのばして俺の首っ玉にかじりつく。俺を守ろうと頑張ってくれたが、やはり怖かったのだろう。
「トレントは番いになり子をなしますが、ドライアド様は本体から別れた子株で数を増やします。見た目の違いは、眉間のイボの有無が分かりやすいでしょうか。
ドライアド様には核がありませんので。」
「カイア、ちょっといいか?
オデコを見せてくれ。」
俺は俺の首っ玉にかじりついているカイアをそっとはがす。
確かにトレントの眉間の間にあったようなイボがない。カイアがトレントじゃないという証拠だ。
「トレントはその姿形のまま大きくなりますが、ドライアド様は大きくなると人の姿をとられます。多くは美しい女性の姿ですが、実際には性別というものはありません。
精霊に性別はありませんので。」
大きくなったら人型になるのか。
「この子を見つけたのはこの近辺ではないのですが……。そんなに離れたところまで移動するものなのですか?」
「森を守る為に、ドライアド様は、子株をわかれさせ、色々な地域に向かわせておりますので。その中の一株かと。」
「じゃあ……連れて帰ってきたら、まずかったということですね。」
カイアはあの森にそのままいさせるべきだったのだ。森の守護神として育つ為に送り込まれたのだから。
カイアと別れなくてはならないのか……。
俺は悲しくなってカイアを見つめた。
「いえ。この子株は貴方様を守護対象として選んだようです。我らの時のように、森以外の守護対象を選んだ場合は、そのものの近くにいることを好みます。
別の子株をまた向かわせていることでしょうから、問題ありますまい。」
「そうなんですか!?」
俺はカイアをじっと見つめる。
カイアは涙を目にためたまま、ニコーッと俺を見て微笑む。
「カイア……!!」
俺はカイアを抱きしめた。
「オンスリーさん、この方は冒険者のジョージさんと言います。
私たちが瘴気から逃れる術を得たきっかけを聞きにいらっしゃいました。
話していただけませんか?」
ララさんが笑顔で言う。
オンスリーさんと呼ばれた、ブルドックの見た目のコボルトの老人が立ち上がり、俺の近くにやってきた。
「オンスリーと申します。前回勇者様がいらした際に同行させていただきました。
今は引退しておりますが、拳闘士をやっておりました。」
そう言って俺たちに恭しく頭を下げた。
「私の家にいらして下さい。
当時のことをお話しましょう。」
「ありがたい、助かります!」
俺とカイアはオンスリーさんの家に行くことになった。