肉は事前に塩麹入のしょうゆだれに漬けてあるのでしっかり味がある。
野菜はオリーブオイルを塗ってあるので、水分が蒸発しにくく、みずみずしく焼き上がっている。塩は焼く前に振ってなじませてある。串からそのまま引き抜くように食べ、ビールを流し込む。あっふあっふ!
カイアがホタテを食べ終わったので、串から外した肉と野菜を小さく切って皿に乗せてやると、これも美味しそうに食べていた。
ああ、いい休日だなあ。
俺は海と、楽しそうなカイアを、交互に眺めながらビールを飲む。
カイアと一緒だから余計に楽しい。
一緒に作ったり食べることを、楽しめる存在がいるというのはいい。
そしてカイアは可愛い。
俺が両親を殺したことを分かっていないのか、すっかり俺に懐いているように見える。
魔物はそうしたものなんだろうか?
肉親の情とかないのかな。
それともあの両親から生まれたことが、そもそも分かっていないのだろうか。
俺は美味しそうに肉を頬張っているカイアを眺める。
同じトレントであっても、悪霊だという両親と、カイアは似ても似つかない。
元は純粋な精霊だと言うから、生まれた時からああではないということなのか。
何が切っ掛けでああなってしまうのだろうか?原因があるなら、調べておいたほうがいいかも知れない。
カイアを悪霊なんかにしない為にも。
まだ日は高かったが、乗合馬車がなくなるとまずいのと、カイアも疲れて眠たそうだったので、俺はカイアをアイテムバッグに入れて帰ることにした。
途中で冒険者ギルドへと立ち寄る。
トレントが悪霊化する原因が分からないかと思ったのだ。
クエストの受付窓口とは別に、相談窓口があり、そこの受付嬢に俺は尋ねてみることにした。
「先日トレントを倒させていただいた者なのですが……。」
「ああ、はい、ジョージさんですね。
事前調査の件も、お疲れ様でした。」
受付嬢が労ってくれる。
「あ、はい。
それで、俺はまだ魔物にあまり詳しくないので、今日は教えて欲しいことがあって来たのですが。」
「はい、なんでしょうか?」
受付嬢は笑顔で応対してくれる。
「トレントは元は木の精霊だったのが、悪霊化したものだと聞かされたのですが、元は純粋だった存在が、悪霊になる原因は分かっているのでしょうか?」
俺の問いかけに、受付嬢は申し訳無さそうな表情を浮かべた。
「……実は、そこのところは、正確に分かっているわけではないのです。
魔物が増えたり、凶暴化する原因は、瘴気と呼ばれるものが、濃くなることが原因なのですが、トレントがその影響下にあるかどうかが分かっておらず……。
魔物とも精霊とも呼ばれていて、そもそもどちらつかずの存在ですので。」
瘴気か……。きっとこの体を貰う筈だった勇者や、聖女が現れることで、減らしてくれるものだとアスターさんは言っていた。
なら、それさえ姿を現せば、カイアは凶暴化しないということなのだろうか?
「そうなんですか……。」
「ですが、コボルトが元は魔物であったように、次第にその凶悪性を失って、人間と手を取り合えるようになった種族も、まれにいるんですよね。」
「そうなんですか!?」
「はい。でも、コボルトは、今は瘴気の影響を受けないんです。だから魔物ではなく獣人という扱いに変わったんですよ。
昔はそれでも迫害されてましたが、今はそういう人も減ったので、人間と仲がいいんです。そういうケースもありますので。」
こんなに純粋で可愛いカイアを、本人の意思でなく凶悪になんてしたくはない。
魔物と人間がともに暮らすことが、いいか悪いかはおいておいて、もしも凶悪になってしまった場合、俺はカイアを退治しなくてはならなくなるだろう。
コボルトは獣人という扱いをされているけれど、もともとは魔物で、だから人間から迫害されていて、昔を知っている年寄は人間を嫌っている、ということか。
コボルトの歴史を紐解けば、何かヒントがあるんじゃないだろうかと、俺は思った。