木皿に適当な量をスプーンで切り取って、各自に渡していく。
「あったかくて美味しい……!
こんなお菓子があるのね!」
「美味いもの、温かいもの、甘いもの、どれも心が安らぐな……。
本当にありがとう、ジョージ。」
みんなの喜ぶ顔が安堵に変わる。俺はにっこりと笑った。
「アシュリーさん、ちなみに、ゴーレムは一度出したら、どのくらい持ちますか?」
「魔力を使い果たすか、出した人が消さない限りは、3日は出たままになるわよ?」
「じゃあ、今日はゴーレムに見張らせて、全員ゆっくり休みましょう。まだゴーレムの魔宝石はありますから。」
「いったいいくつ買ったんだい?」
「君には本当に驚かされるな、ジョージ。」
ザキさん、インダーさんが、驚いて俺を見てくる。
「せっかくのジョージの提案だ、明日に備えてゆっくり休もう。」
アスターさんの一言で、全員寝袋を用意して休むことにした。
全員で空を見上げる。光がないから、とてもきれいに星が見える。
「おっ、流れ星だ。」
「明日になったら、無事に森を抜けれますように。」
マジオさんが流れ星に願いをかける。この世界でもその習慣があるんだな。
「魔物が近付いてきたら起こしてくれ。」
俺はゴーレムにそう命令して、寝袋に入って目を閉じた。
疲れていたのだろう、横になった瞬間寝てしまったらしい。気が付いたら朝になっていて、少し肌寒かった。
「見て!普通の森の入口よ!」
アシュリーさんが指差す先には、確かに昨日薄暗い森に入る前の、普通の木の少ない森が見える。こんなに入り口のすぐ近くで寝ていたのに、出口が分からなかったのか。やはり森に惑わされていたらしい。
急いで寝袋をしまい、森を抜けて、コボルトの集落へと向かった。
「やった……!助かった……!」
集落の入り口が見えて、マジオさんが思わず、バンザイのようなポーズをする。
みんなホッとした表情になった。
「私はこのまま冒険者ギルドに行って、ことの詳細を報告するわ。」
アシュリーさんがコボルトの集落の入り口の前で言う。
「俺たちは事前調査の依頼をしてきた、冒険者ギルドに報告に行くよ。」
アスターさんがそう言った。
「じゃあ、ここでお別れね。」
「色々とありがとうございました。」
「とんでもないわジョージ、こちらこそよ。
本当に色々とありがとう。」
アシュリーさんに御礼を言うと、アシュリーさんがそう言った。
俺たちは再び乗り合い馬車に揺られて、元来た道を戻った。
「冒険者ギルドへの報告は、俺たちがしておくから、ジョージは先に帰ってくれ。
色々やってくれて疲れたろう。」
アスターさんがそう言ってくれ、他のみんなもそれにうなずいた。
「そうさせてもらおうかな。」
カイアのことも心配だしな。
「弁当うまかったぜ。」
「本当に助かったよ、またよろしくな。」
「あんなに怖い思いをしたのに、心が折れなかったのは、ジョージのおかげだよ。」
ザキさん、インダーさん、マジオさんがそう言ってくれる。
乗合馬車を降りたところで、俺たちは手を振って別れた。
俺はすぐさま家へと向かった。
ドアを開けた途端、俺は突然飛び出して来た何かにぶつかられた。
「──!?」
それは飛びついてきたカイアだった。
ボロボロに泣いている。
弁当はしっかり食べてあったが、俺を探して家中歩き回ったのか、床にも階段にも、あちこちにしずくがたれている。この分だと恐らく2階にもあるのだろう。
1人のお泊りが怖かったのだろうか。それとも俺に捨てられたとでも思ったのか。
カイアはまだ小さい子どもなのだ。魔物だけれど、──とても純粋な。
俺がいなければひとりぼっちなのだ。
俺は胸が締め付けられた。
「──ごめんなカイア、怖かったな。
もう1人になんて、絶対しないから。」
俺はカイアを抱き上げて、俺にしがみついてくる細い木の枝を、折ってしまわないように、そっと抱きしめてやると、はじめてカイアが小さく、ピョル……と鳴いた。
その小さな小さな鳴き声が、俺は愛おしくてたまらなくなった。