「……おかしくないか。
さっき俺たちは、さっきあの洞窟にたどり着くまでに、こんなに歩いてない筈だ。」
インダーさんが言う通り、薄暗い森の中をしばらく歩きはしたものの、ここまでの距離を歩いた記憶は俺にもない。
既にあたりは真っ暗で、何度も照明の魔宝石を使った。
「──恐ろしいことを言ってもいいか。」
マジオさんが引きつった表情でそう言う。
「聞きたくないけど、お前何か確信がありそうだな。」
アスターさんがそう言った。
「俺は、さっき通った木に、印をつけておいたのさ。
……見てくれ。さっき俺のつけた傷だ。
まだ真新しいのが分かると思う。
多分、俺たちは同じところを、ぐるぐると回ってる。」
「闇の王は、あの巨大な目で幻覚を見せると言うわ。
ひょっとして私たち、まだ洞窟の中にいるんじゃ……!?」
アシュリーさんが思わず最悪の想像をしてしまい、自分自身で震える体を抱きしめる。
「いや、多分、それはないな。
──これを見てくれ、俺がさっき落っことした、俺の大剣につけてあったお守りさ。
今そこで見つけたんだ。」
「いつもつけてる、おふくろさんに貰ったっていうやつか。」
「ああ。
洞窟に入る時点で、ついてないのに気がついたから、洞窟の中で落とした筈はない。
俺がコイツを落っことすことなんて、テネブルに想定出来る筈もない。
だから少なくとも、ここは洞窟の外だ。」
「それは確かにそうだな。
つまり、この森自体に魔法がかかってるってわけだ。」
「多分そういうことだと思う。
朝になるのを待とう。明るい時はなんともなかったんだ。朝になればもとに戻る可能性がある。」
「今日はここで野宿するしかないか……!」
「もともと野営の予定だったしな。のんびりと朝を待つとしよう。」
「腹減った~。もうくたびれちまったよ。」
「確かに、腹が減ったな。食事にしよう。」
「そうね、そうしましょうか……。」
みんな疲労困憊だ。
ザキさん、アスターさん、マジオさん、インダーさん、アシュリーさんが、次々と地面にしゃがみこんだ。
「実はだな、晩飯の弁当も、作ってきたんだが……。」
それを聞いたみんなの表情が、パアッと明るくなる。
「やった!ジョージの料理だよ!」
「うまいものが食えるだけでも、気持ちが救われるな……!」
「本当にそうね、ジョージがいてくれて良かったわ。」
「食べよう!食べよう!」
「待て待て、まずは魔物避けの焚き火を作ってからだ。」
マジオさん、インダーさん、アシュリーさん、ザキさんが、すぐにでも弁当を食べたがるのを、アスターさんが制して、みんなで枯れ木を集めて焚き火をおこした。
俺は防水シートを広げて、その上に弁当を広げた。みんなの表情がほころんでいく。
「ああ……、うまい、うまいよ……!」
「魔物のことなんて、一瞬忘れちまうな。」
「ああ……。早く寝て目が覚めて、夢だったんだと思いたいもんだ。」
モリモリ弁当をほおばるマジオさん、インダーさん、アスターさんに、俺はマグカップを差し出す。
「どうぞ。温かいスープです。」
「さっきのとは違うのね。」
「本当だ、これもうまいな。」
お湯200ミリリットルに対し、昆布茶を小さじ1混ぜて、ごま油を数滴、みじん切りにした白ネギを散らしただけの中華スープだ。これもキャンプでよく飲む。
少し冷えてきたので、温かなスープはやはり必要だと思った。これは準備していなかったものだが、白ネギは火を通さなくていいので、すぐ作れるので用意してみた。
俺も飲んでホッとする。
気をはっていたのだろうな。
その間にも、持ってきた小さなフライパンで作っているものに火を通す。
「何を作ってるんだい?ジョージ。」
インダーさんが不思議そうに覗いてくる。
「焼きバナナのハチミツとマスカルポーネチーズ乗せです。
デザートですよ。」
俺は微笑んだ。
小さなフライパンにバターを入れて、バナナに焼き色がつくまで焼いたら、マスカルポーネチーズを乗せて、ハチミツをかけて火を通しただけのものだ。
マスカルポーネチーズとバターを4対1、ハチミツは適当に。マスカルポーネはクリームのようなコクのあるチーズだが、溶けるとチーズフォンデュのようになる。