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第28話 昆布茶と白ネギの中華スープと、デザートの焼きバナナのハチミツとマスカルポーネチーズ乗せ②

「……おかしくないか。

 さっき俺たちは、さっきあの洞窟にたどり着くまでに、こんなに歩いてない筈だ。」

 インダーさんが言う通り、薄暗い森の中をしばらく歩きはしたものの、ここまでの距離を歩いた記憶は俺にもない。


 既にあたりは真っ暗で、何度も照明の魔宝石を使った。

「──恐ろしいことを言ってもいいか。」

 マジオさんが引きつった表情でそう言う。

「聞きたくないけど、お前何か確信がありそうだな。」

 アスターさんがそう言った。


「俺は、さっき通った木に、印をつけておいたのさ。

 ……見てくれ。さっき俺のつけた傷だ。

 まだ真新しいのが分かると思う。

 多分、俺たちは同じところを、ぐるぐると回ってる。」


「闇の王は、あの巨大な目で幻覚を見せると言うわ。

 ひょっとして私たち、まだ洞窟の中にいるんじゃ……!?」

 アシュリーさんが思わず最悪の想像をしてしまい、自分自身で震える体を抱きしめる。


「いや、多分、それはないな。

 ──これを見てくれ、俺がさっき落っことした、俺の大剣につけてあったお守りさ。

 今そこで見つけたんだ。」

「いつもつけてる、おふくろさんに貰ったっていうやつか。」


「ああ。

 洞窟に入る時点で、ついてないのに気がついたから、洞窟の中で落とした筈はない。

 俺がコイツを落っことすことなんて、テネブルに想定出来る筈もない。

 だから少なくとも、ここは洞窟の外だ。」


「それは確かにそうだな。

 つまり、この森自体に魔法がかかってるってわけだ。」

「多分そういうことだと思う。

 朝になるのを待とう。明るい時はなんともなかったんだ。朝になればもとに戻る可能性がある。」


「今日はここで野宿するしかないか……!」

「もともと野営の予定だったしな。のんびりと朝を待つとしよう。」

「腹減った~。もうくたびれちまったよ。」

「確かに、腹が減ったな。食事にしよう。」

「そうね、そうしましょうか……。」


 みんな疲労困憊だ。

 ザキさん、アスターさん、マジオさん、インダーさん、アシュリーさんが、次々と地面にしゃがみこんだ。

「実はだな、晩飯の弁当も、作ってきたんだが……。」

 それを聞いたみんなの表情が、パアッと明るくなる。


「やった!ジョージの料理だよ!」

「うまいものが食えるだけでも、気持ちが救われるな……!」

「本当にそうね、ジョージがいてくれて良かったわ。」

「食べよう!食べよう!」

「待て待て、まずは魔物避けの焚き火を作ってからだ。」


 マジオさん、インダーさん、アシュリーさん、ザキさんが、すぐにでも弁当を食べたがるのを、アスターさんが制して、みんなで枯れ木を集めて焚き火をおこした。

 俺は防水シートを広げて、その上に弁当を広げた。みんなの表情がほころんでいく。


「ああ……、うまい、うまいよ……!」

「魔物のことなんて、一瞬忘れちまうな。」

「ああ……。早く寝て目が覚めて、夢だったんだと思いたいもんだ。」

 モリモリ弁当をほおばるマジオさん、インダーさん、アスターさんに、俺はマグカップを差し出す。


「どうぞ。温かいスープです。」

「さっきのとは違うのね。」

「本当だ、これもうまいな。」

 お湯200ミリリットルに対し、昆布茶を小さじ1混ぜて、ごま油を数滴、みじん切りにした白ネギを散らしただけの中華スープだ。これもキャンプでよく飲む。


 少し冷えてきたので、温かなスープはやはり必要だと思った。これは準備していなかったものだが、白ネギは火を通さなくていいので、すぐ作れるので用意してみた。

 俺も飲んでホッとする。

 気をはっていたのだろうな。


 その間にも、持ってきた小さなフライパンで作っているものに火を通す。

「何を作ってるんだい?ジョージ。」

 インダーさんが不思議そうに覗いてくる。

「焼きバナナのハチミツとマスカルポーネチーズ乗せです。

 デザートですよ。」

 俺は微笑んだ。


 小さなフライパンにバターを入れて、バナナに焼き色がつくまで焼いたら、マスカルポーネチーズを乗せて、ハチミツをかけて火を通しただけのものだ。

 マスカルポーネチーズとバターを4対1、ハチミツは適当に。マスカルポーネはクリームのようなコクのあるチーズだが、溶けるとチーズフォンデュのようになる。


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