集落の中で一番大きな木の建物が冒険者ギルドだった。到着の報告に来ると、中にはコボルトしかいなかった。
「コボルトの冒険者もいるんだな。」
受付カウンターで受付嬢に対応されているコボルトは、装備を身に付けており、明らかに依頼者の風体ではない。
「めったに居ないけどな。コボルト独自の拳闘士と魔法使いがいるぜ。」
冒険者ギルドの受付嬢は、ピンクの毛並みの、可愛らしい赤のイヤーシュシュを耳に付けて、ツインテールのようにした、黒目の大きなパピヨンのようなコボルトだった。
「かっ……!可愛い……!!」
俺は思わず声に出してしまう。
コボルトの受付嬢は、ふふっと笑うと、
「人間は皆さんそうおっしゃってくださいます。ララと言います。
今日は現地調査にいらしてくださったんですよね?お話は承っています。」
「あ、はい、すみません、初対面の女性にいきなり……。」
「いえいえ。
受付を済ませますので、冒険者登録証をお願いいたします。」
俺たちは冒険者登録証をララさんに渡す。
「分かるぜ、俺たちもすっかり初対面でやられちまったからなあ、ララさんには。」
アスターさんたちにも笑われた。
「あら、ララだけなの?」
声がして振り返ると、アフガンハウンドのような金色の毛並みの、美人のコボルトが立っていた。
冒険者のような出で立ちで、ララさんとにこやかに挨拶している。
「おお、アシュリー、久しぶりじゃないか。相変わらず美しいな。」
「ありがと。この間はオークのお肉をありがとね。みんな喜んでたわ。」
「なんのなんの、アシュリーにはいつも助けられているからな、冒険者は持ちつ持たれつさ。」
アスターさんたちとにこやかに話しているところを見ると、気心の知れた間柄らしい。
「今日は私が現地に同行することになっているのよ。案内と、この地域のギルドへの優先報告係ね。」
「それは頼もしい。よろしく頼むよ。
ああ、ジョージは初めてだったよな。」
「ジョージ・エイトです。よろしくお願いいたします。」
「アシュリーよ。
精霊魔法使いをやってるわ。」
「精霊魔法使い?」
「ジョージは精霊魔法使いは初めてか?」
「ええ。精霊自体は、このあいだトレントを退治したくらいで……。」
「トレントを!?
……ひょっとして、最近出回ってるステータス上昇の実は、お前さんの仕業か?」
アスターさんがこっそり耳打ちしてくる。
「まあ……当たらずとも遠からずというか、そんなところだ。」
そのままだけどな。
「コボルトは、精霊が味方してくれることが多いの。一般的な魔法使いは、元素をもとにして、この世界にあるものを使って魔法を出すけれど、精霊魔法使いは、精霊の力を借りて魔法を使うのよ。
人間にもまれにいるけれど、精霊魔法使いといえば、大体の人はコボルトを連想するわね。」
「そうなのか、俺は魔法はさっぱりだからなあ……。魔物が使っているところしか見たことがないんだ。」
「なんだジョージ、魔法使い自体が初めてなのかい?こりゃあ、いいところを見せないとだな。」
魔法使いのインダーさんが張り切ってみせる。
「魔法といえば、冒険者ギルドから支給品が届いてますよ?」
ララさんが声をかけてくれる。
「おお、目くらましと爆音の魔宝石じゃないか、ありがたい。」
ザキさんが代表して魔宝石を受け取る。
「魔宝石……?」
「宝石自体に魔法がかけられていてな、こいつの場合は、地面に投げると強い光と爆音を放って、敵から逃げやすくなるものだ。
強さによっては魔物が気絶することもあるぞ?」
ようするに、スタングレネード魔法版ということか。
「今回の調査は、危険な魔物が出る可能性もあるわけだし、冒険者ギルドも、討伐に切り替えてもいいとはいっても、逃げる前提で考えてるんだろうね。」
弓使いのマジオさんが言う。確かにこの支給品はその為のものだろう。
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