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第26話 たまには料理しないこともある。②

 集落の中で一番大きな木の建物が冒険者ギルドだった。到着の報告に来ると、中にはコボルトしかいなかった。

「コボルトの冒険者もいるんだな。」

 受付カウンターで受付嬢に対応されているコボルトは、装備を身に付けており、明らかに依頼者の風体ではない。


「めったに居ないけどな。コボルト独自の拳闘士と魔法使いがいるぜ。」

 冒険者ギルドの受付嬢は、ピンクの毛並みの、可愛らしい赤のイヤーシュシュを耳に付けて、ツインテールのようにした、黒目の大きなパピヨンのようなコボルトだった。


「かっ……!可愛い……!!」

 俺は思わず声に出してしまう。

 コボルトの受付嬢は、ふふっと笑うと、

「人間は皆さんそうおっしゃってくださいます。ララと言います。

 今日は現地調査にいらしてくださったんですよね?お話は承っています。」


「あ、はい、すみません、初対面の女性にいきなり……。」

「いえいえ。

 受付を済ませますので、冒険者登録証をお願いいたします。」

 俺たちは冒険者登録証をララさんに渡す。


「分かるぜ、俺たちもすっかり初対面でやられちまったからなあ、ララさんには。」

 アスターさんたちにも笑われた。

「あら、ララだけなの?」

 声がして振り返ると、アフガンハウンドのような金色の毛並みの、美人のコボルトが立っていた。


 冒険者のような出で立ちで、ララさんとにこやかに挨拶している。

「おお、アシュリー、久しぶりじゃないか。相変わらず美しいな。」

「ありがと。この間はオークのお肉をありがとね。みんな喜んでたわ。」


「なんのなんの、アシュリーにはいつも助けられているからな、冒険者は持ちつ持たれつさ。」

 アスターさんたちとにこやかに話しているところを見ると、気心の知れた間柄らしい。


「今日は私が現地に同行することになっているのよ。案内と、この地域のギルドへの優先報告係ね。」

「それは頼もしい。よろしく頼むよ。

 ああ、ジョージは初めてだったよな。」

「ジョージ・エイトです。よろしくお願いいたします。」


「アシュリーよ。

 精霊魔法使いをやってるわ。」

「精霊魔法使い?」

「ジョージは精霊魔法使いは初めてか?」

「ええ。精霊自体は、このあいだトレントを退治したくらいで……。」


「トレントを!?

 ……ひょっとして、最近出回ってるステータス上昇の実は、お前さんの仕業か?」

 アスターさんがこっそり耳打ちしてくる。

「まあ……当たらずとも遠からずというか、そんなところだ。」

 そのままだけどな。


「コボルトは、精霊が味方してくれることが多いの。一般的な魔法使いは、元素をもとにして、この世界にあるものを使って魔法を出すけれど、精霊魔法使いは、精霊の力を借りて魔法を使うのよ。

 人間にもまれにいるけれど、精霊魔法使いといえば、大体の人はコボルトを連想するわね。」


「そうなのか、俺は魔法はさっぱりだからなあ……。魔物が使っているところしか見たことがないんだ。」

「なんだジョージ、魔法使い自体が初めてなのかい?こりゃあ、いいところを見せないとだな。」

 魔法使いのインダーさんが張り切ってみせる。


「魔法といえば、冒険者ギルドから支給品が届いてますよ?」

 ララさんが声をかけてくれる。

「おお、目くらましと爆音の魔宝石じゃないか、ありがたい。」

 ザキさんが代表して魔宝石を受け取る。


「魔宝石……?」

「宝石自体に魔法がかけられていてな、こいつの場合は、地面に投げると強い光と爆音を放って、敵から逃げやすくなるものだ。

 強さによっては魔物が気絶することもあるぞ?」

 ようするに、スタングレネード魔法版ということか。


「今回の調査は、危険な魔物が出る可能性もあるわけだし、冒険者ギルドも、討伐に切り替えてもいいとはいっても、逃げる前提で考えてるんだろうね。」

 弓使いのマジオさんが言う。確かにこの支給品はその為のものだろう。


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