「……自動で止まる機能とは別に、時計用の魔石が必要になる可能性がありますね。
なんとか1つに出来ないか努力してみますが、難しかった場合、大分お高くなってしまうんじゃないかと……。」
「どのくらいになりますか?」
「そうですね……。魔石の大きさは小さくなりますけど、使う回路が同じなので……。
ざっとこのくらいでしょうか。」
ミスティさんは、そろばんとなにかを足したような計算機を出して、金額を見せた。
「結構しますね。
うーん、でも、長い目で見た場合、その分寝る時間が増えるしなあ……。
よし!思い切って、お願いします!」
大事だよな、睡眠時間。
仕事してると特に。
「分かりました。すぐには出来ませんので、しばらくしたらまたいらして下さい。」
「分かりました、よろしくお願いします。」
「……手付は俺の方から払いますんで。」
俺はヴァッシュさんの腕をつつくと、こっそり耳打ちをした。
ミスティさんが言っているのは、あくまでも現物のみの値段だけだ。試行錯誤するには金がかかる。あるものを作るのとは異なるので、プラスαで開発費用がかかるのだ。
そこは俺が負担することにした。
「いいのか?」
「はい、俺は魔物を狩れば済む話ですし。」
「分かった。
お前さんの言う通りにしよう。」
もともと盾を作るのに大金を預けてあるので、そこから引いてもらうことにした。
その足で商人ギルドに行って、キッチンペーパーの登録申請をした。
登録が終わったら、取り扱ってくれる商団も紹介してくれるらしい。
それから俺たちは、帰り道の途中にある湖に立ち寄り、持ってきた釣り竿で、のんびりと釣りを楽しんだ。
俺の出した釣り竿に、ロンメルは酷く驚いていた。この世界には、リール付きの釣り竿がないらしい。
昼飯は、釣れた魚をその場で焼いて、塩で食べた。この世界に来て初めて、友人と過ごす時間はとても楽しかった。
お互いの家に向かう道に差し掛かかり、俺たちはそこで別れ、またすぐに会おうと約束をした。
家に戻り、そういえば、と、ふと、トレントの子どもをアイテムバッグに入れっぱなしだったことを思い出す。
俺は大きめの植木鉢に、畑から取ってきた土を入れて、アイテムバッグからトレントの子どもを出した。
トレントの子どもは酷く怯えていた。
俺は植木鉢に入れてやろうとしたが、植木鉢のふちに根っこをつけて、これ以上中に入らないように抵抗して、なかなか土の中に根っこを入れようとしない。
「大丈夫だ、栄養タップリで、過ごしやすい土だぞ?」
俺は一度引き上げると、気を抜いた隙に植木鉢の土の上にトレントの子どもを置いた。
「ふふふ、隙あり。」
はじめはびっくりして泣きそうになっていたが、すぐに触れた土が自分にとってよい環境であることに気付いたらしい。
ソロソロと根をおろし、土の中に根っこを完全に入れた。
「よしよし、気に入ったな。」
しかし、こいつらは肉食だから、水と土だけというわけにはいかないんだよな。
何をやろうか。
俺はアーリーちゃんとクッキーを作ったあまりを、アイテムバッグに入れていたことを思い出して取り出した。
「ほら、食べるか?」
俺の出したクッキーを、恐る恐る手にとって、鼻を近付けて匂いを嗅いでいたが、パクッと口に入れた瞬間、目が輝き出す。
もっと食べたそうに、チラチラとこちらを見ているが、言い出せずにいる様子が、小さい子どもか小動物のようで、とても可愛らしい。
「ははは。」
追加でクッキーを出してやると、嬉しそうに食べた。
「お前のお父さんとお母さんを、殺しちまってごめんな。お前が親と同じに凶暴になっちまったら、いつまで世話してやれるか分からんが、それまで一緒にいような。」
俺の言っていることが分かっているのかいないのか、トレントの子どもは目をしばたかせていた。
「名前をつけたいけど、そもそもオスなのかな、メスなのかな。」
俺は首をひねった。
そもそも両親からして、オスメスの違いが見た目で分からなかったからな……。
「どっちでも良さそうな名前にするか。
お前は今日からカイアだ。
ギリシャ語で、純粋って意味だ。
お前にピッタリだろ?」
俺はもう一つクッキーを差し出しながら言った。
意味が通じたからなのか、たまたまクッキーが嬉しかったからなのか、カイアはくりっとした目を輝かせて、可愛らしく笑った。