「昨日は気付かなかったが、庭に畑作ってるのか?」
ロンメルが、お茶漬けのおかわりを待つ間に、窓から外を眺めながら言う。
「ああ、まだ耕してる最中で、何も植えてないけどな。」
「いいな、俺もやりたいと思ってるが、なにせ王宮の近くに住んでると、土地付きは難しくてな。」
「確かに、高そうだ。」
「そういや、ジョージはなんでこの国に来たんだ?」
「うーん……まあ、なんとなくだな。
あと、食べてみたことのない食材が食べたかったからかな。」
神の手違いでしたとは言えない。
そもそも転生したなんて、言ったところで信じてくれるか分からないが。
「ああ、確かにそれなら正解だな。
この国は、湖も海もある。山の幸も豊富だし、食べられる魔物も多い。
気になるのは、魔物が最近活性化し過ぎてることくらいだ。」
ロンメルがため息をついた。
「そうなのか?」
「本来いる筈の群れより数が多かったり、強くなり過ぎたりしてるみたいだ。
村にも冒険者をやってるやつがいるが、本来受けたクエストのランクじゃ、倒せない魔物が出ることが増えたらしくてな。」
そういえば、ギルドは事前調査をしているのにも関わらず、予定よりも群れの数が多かったり、本来いる筈のない魔物がいることが多かったな。
俺はよく知らないから、そんなものなのかと思っていたが。
「過去にもこんなことがあってな、その時は勇者と聖女が現れて、事なきをえたらしいんだが、今のところ、そんな存在が現れる兆しがない。どうなるのか、みんな不安がっているよ。」
……ひょっとして、俺の体は、勇者に与える筈のものだったんじゃないのか?
俺が転生したことで、勇者が現れるのが遅れているのだろうか。
だが、俺には魔物を倒す為の特別な力など与えられていないし、どうしようもない。
「今日はこの後どうする?」
俺の出したおかわりのお茶漬けをすすりながら、ロンメルが聞いてくる。俺もおかわりを食べていた。
ロンメルとであれば、何をしても楽しそうだが。俺は考えをめぐらせた。
「工房に行ってみないか?
昨日、家庭用の食器洗浄機が欲しいと言っていただろう?どんな風にしたいのか、希望を直接伝えて貰ったほうが早いと思う。」
「ああ、確かに。もし加えられるなら、加えたい改良点があったんだ。」
「なるほど、じゃあこれを食べたら早速行こうか。工房の近くにいい湖があるんだ。用事が済んだら釣りでもしないか?」
「いいな、そうしよう。」
俺たちは今日の予定を決めると、一気に残りのお茶漬けをかきこんだ。
「ヴァッシュさん、こんにちは。
今日は友人を連れてきました。」
「おお、ジョージ、この間は本当に助かったよ。ナナリーもすっかりよくなった。」
「それは良かったです。」
ヴァッシュさんが笑顔で出迎えてくれる。
「友人のロンメルです。宮廷料理人をやってるんですよ。」
「おお、そりゃ凄いな。」
「ロンメルです、よろしくお願いします。」
ロンメルはヴァッシュさんと挨拶して握手をかわした。
「家庭用の食器洗浄機が欲しいらしいんですが、改良を加えたいらしくて。」
「ほお?どんなだ?」
「乾燥機能を加えたいんです。
夜洗って、乾いてくれれば、その分拭く手間が省けるなと。」
なるほど。確かに、元の世界でもそういう機能のついているタイプがあるな。
俺の業務用は、巨大な鍋を乾かすなんて時間がかかって無理だから意味ないが、家庭用ならその機能があったほうが便利だろう。
「ふむ、風魔法と火魔法の魔石を使えばいけると思うが、時間で止まる機能と、どう回路を組み込むかだな。
ワシはそこは専門じゃないから、うちの若いのを呼ぼう。」
ヴァッシュさんはそう言うと、工房の奥から、若い女性を連れて来た。
お団子にまとめられた濃い茶色の髪、つり上がった目に、縁取りの濃い睫毛の、気の強そうな美人だった。
ミスティさんと言うらしい。俺たちは挨拶をかわした。
「ミスティ、こちらのお客さんが、お前さんの作った食器洗浄機を、家庭用に改良したいらしい、話を聞いてやってくれんか。」
「彼女が作られたんですか、業務用はうちの職場でも使っています。とても使い勝手がいいですよ。」
そう言われて、無表情に見えたミスティさんが、ちょっと恥ずかしそうに頬を染める。
「……ありがとうございます。」
「若いが、魔道具作成においては、右に出るやつがいないと、ワシャ思っとるよ。」
俺たちはそれを聞いて感心したが、ミスティさんは、師匠、褒めすぎです、と恥ずかしそうだった。
「乾燥機能を組み込んで欲しいのですが、可能でしょうか?」