「やっちまったなあ……。」
「まったくだ。」
俺とロンメルは、のそのそとベッドから起き上がり、朝食の支度を始めた。
ベッドで寝てはいたが、いつ寝たのかお互い記憶にない。
「今日も仕事は休みなのか?」
「ああ。まあただ、明日の準備もあるからな、夕方までには帰るよ。」
「そうか。──朝飯はパンがいいか?」
「うーん……そうだなあ……。
ジョージの故郷の料理を、もう少し食べてみたい気もするな。」
「そうか。
昨日のヌルチガもまだ余ってることだし、酒のんだ次の日だからなあ……。
朝は軽く、茶漬けにでもするか。」
「茶漬け?」
「お茶という飲み物があるんだが、それとライスを一緒に食べるのさ。うまいぜ。」
「ほーお?
面白い食べ物だな!
まあ、ワインも料理に使うし、そんなような考え方ってことか。」
「まあそういうことだな。」
「じゃあ俺は卵焼きでも作るか。」
「ああ、いいな、茶漬けにも合う。」
「そうなのか。」
「卵焼きは俺たちの故郷でも、朝の定番のオカズなんだ。」
「なるほどな、万能だよな、卵焼きは。
そしたら、酢と油と卵と塩とコショウをくれないか。」
「卵焼きにお酢?」
「ピピルを作るんだ。」
「ピピル?」
「それらを混ぜ合わせたソースみたいなもんだな。」
「ひょっとして……これか?」
俺は冷蔵庫からマヨネーズを出して、ちょっと小皿に出して渡した。
ロンメルがマヨネーズを指にとって舐めると、
「これだ!
お前のところでも作り置きしてたのか。」
「作り置きというか、まあ……。」
作れるけど、今回は市販品なんだよな。
「あとは、パフィスリーの粉があればいいんだが……。」
「パフィスリー?」
「海藻から作られたものだ、味付けのもとになる。そのままで使うこともあるが、粉のほうが早いから、粉で使うことも多いな。」
「海藻……。これなんかどうだ?」
俺は昆布だしの素を渡した。ロンメルが手にとって舐める。
「少し違うが、だいぶ近いな。うん、これでいいか。」
「そのまま溶けるから、取り出さなくていいぞ。」
「そうなのか?パフィスリーは、布の袋に入れて使って、あとで取り出すんだが。
便利なものがあるんだな。」
ロンメルは感心しながら、卵焼きを作り始めた。
「俺もヌルチガを使おうかな。」
ロンメルが切り身にしたヌルチガを、焼いて丁寧にほぐしてゆく。
「いいな、うまそうだ。」
「よく母親が作ってくれたのさ。
こいつをパンに挟んでもうまいぜ。」
ロンメルは卵を溶いて、そこにマヨネーズを小さじ1、昆布だしの素を小さじの1/3程度加えてよく混ぜたものを、卵焼き器に半分流し入れると、手早くほぐしたヌルチガを左半分に入れて、それを芯にするようにくるくると巻いて端に寄せ、残りの卵液を流し込んでさらに巻いた。
俺はイクラ、焼き海苔、三つ葉、昆布茶、わさび、顆粒だし、醤油、みりん、塩、アツアツのご飯を出して準備した。
ヌルチガ(鮭)を両面、焼き色がつくまで油を使わずに焼いてやり、ほぐして骨を取り除く。
熱湯をわかし、水600ミリリットルに対し、顆粒だし、昆布茶、みりん、醤油を、1対1対2対3で入れ、塩を少々加えてまぜ溶かす。味付けはちょっと薄めにするので小さじ程度で十分だ。
丼にご飯を盛ったら、ヌルチガ(鮭)を乗せ、刻んだ焼海苔と、刻んだ三つ葉を散らし、イクラをのせて、わさびを添える。
アツアツの出汁を上からかけて、ヌルチガ(鮭)の親子茶漬けの完成だ。
「出来たぞ。」
「早いな、こっちも出来る。」
俺たちはテーブルに料理を移した。
「「いただきます。」」
2人して両手を合わせて、さっそく朝食をいただくことにした。
「うん!ライスが、昨日とはまた違ったうまさだな!」
「卵焼きもいい感じだ。茶漬けに合うな。」
「おかわりいいか?」
「少し待ってくれ、ヌルチガを焼けばすぐ出来る。」
俺はテーブルから立ち上がり、再びコンロへと向かう。
「まいったな、あっという間に食べちまったよ。」
「サラサラいけるだろ、酒のんだ夜や、次の日の弱った胃に最適な料理さ。」
「量を食ってりゃ、同じ気もするがな。」
「違いない。」
ヌルチガを焼きながら振り返り、俺たちはそう言って、顔を見合わせて笑った。