あまったレタスの芯を自分用に茹でる。お客が来る前に腹ごしらえをしとかないとな。既に茹でてあるオーク肉と一緒に、アツアツのご飯を出して、ツケダレにつけて一気にかき込む。
やっぱりレタスの温しゃぶは芯の部分が一番ウマイ……!
俺がたまに発作的に食べたくなる料理の1つがレタスと豚肉の温しゃぶだ。こいつを食べる時は、ついついご飯を400グラムも食べてしまう。
普段ならレタスを先に茹でるのだが、後茹でも豚の旨味を吸ってまたうまいな。
ガツガツとかっ食らう。温しゃぶはレタスの割合が多いほうが俺は好きだ。
レタスが肉より高いことがあるので、たまにしか出来ないが。
ふう……。大満足だ。
ふと顔をあげると、店の外から大勢の人が覗いているのが見える。
しまった、早く店を開けなくては。
手早く片付けて扉を開けた。
「お待たせしました、いらっしゃいませ。」
ドヤドヤと大勢のお客が一気になだれ込む。
「あれ?ナナリーさんは?」
「すみません、今日は俺が代わりなんです。それと、今日は料理が一種類のみでして。」
「そうなんだ、じゃあ、それを頼むよ。」「パンとライスどちらにしますか?」
「ライス?」
「穀物の一種ですね、腹にたまりますし美味しいですよ。」
「じゃあ、俺はそれにしてみようかな。」
「俺はパンで頼む。」
「かしこまりました。」
次々と注文が入り、俺は盛り付けした皿をテーブルに運んでいく。
米をテーブルに置くと、それを見たお客がウッという表情になる。
「バイルダー……?」
バイルダー?
目の前にない食材やレシピは、パッと情報が出てこない。探し方はあるのだが、時間がかかるので普段やらないのだ。
「どうかなさいましたか?」
「いや……、これ、穀物って言ったよな?
小麦粉とか、……そういうのと同じなんだよな?」
「はい、そうですね?」
「そうか……。」
なぜそんなに恐れている風なのだろうか?
意を決して、という表情で、オークの豚しゃぶとともに米を口に運ぶ。
モソモソと噛んでいたが、
「……うまい!」
それを見た、同じくライスを注文していた客が、安心したように口に運んだ途端、一斉にガツガツと食べだす。
「ライス、うまそうだな、俺もそれにしてみようかな。」
「こっちもライスに変更してくれ!」
飛ぶように米が売れる。
やっぱり豚しゃぶは、パンよりもアツアツの米だよなあ。
米のうまさを知って貰えて俺も嬉しい。
外から見える、他の客の食べる勢いの凄さに興味を惹かれたのだろう、あとからあとから店に客が入ってきて、ひっきりなしだ。
洗い物をしている暇がなく、皿が足りなくなってくる。
「どうかね?店の様子は。」
そこにヴァッシュさんが降りてきた。
「──目が回りそうです。」
「大変そうだな、皿洗いを手伝おう。」
「助かります!」
俺たちは2人で必死に店を回した。
「ええ?昼はもうおしまいかい?」
「すみません、今日は材料がなくて……。」
別に出せばいいのだが、給仕をしながらでは、とても作っている時間が足らない。
準備中の札にひっくり返して、最後のお客を見送ると、どっと疲れがわいてきた。
「助かりました、ヴァッシュさん。」
「なんの、こちらこそだ。
孫娘の為に本当にありがとう。
ナナリーの状態も良さそうだ。
今日は大事をとらせるが、明日には元気になっとると思うよ。」
「ナナリーさんはこれを毎日お1人でやられてるんですよね、……本当に頭が下がりますよ。」
そう言って笑う。そこにナナリーさんが2階から降りてきた。
「あの……大丈夫ですか?」
「ナナリーさんこそ、まだ寝てらしたほうがいいですよ。
無理なさらないで下さい。
お金の計算は間違ってないと思いますし、損も出てないと思いますが、あとで確認してみてください。」
「本当に、何からなにまで……。」
ナナリーさんが嬉しそうに微笑む。
「お客様も喜んでくれましたし、問題なかったと思います。」
そんな俺達を見て、ヴァッシュさんは、ほんにおしいのう……。と言った。