「はい、ぜひお願いします。」
「お前さんならすぐに引き取りに来るだろうと思ってな。既に準備してあるよ。」
そう言って、ヴァッシュさんは工房の奥からオリハルコン銃と、属性付与済みのオリハルコン弾を出して来た。
オリハルコン銃があるので、今までのものよりオリハルコンの使用量が多い。
「ありがとうございます。」
俺はカウンターでオリハルコン銃の残金と弾の代金、そして盾の内金として中白金貨10枚を支払った。会計を担当してくれたのは最初に会った職人だったが、俺がオリハルコンの盾を依頼することに、もう違和感はないようだった。
「昼飯は食ったか?」
「いえ、まだです。」
「ちょっと早いが、銃を手に入れたお祝いをかねてナナリーの店で食わんかね。」
「いいですね。」
俺たちはそろってナナリーさんの店へと向かった。
「おや……?おかしいな。まだ準備中になっているぞ?」
普段ならもう営業しとる時間なんだが、と言って、ヴァッシュさんは首をかしげる。
ドアを押すと鍵があいていた。
「おーい、ナナリー?」
ヴァッシュさんが店に入っていく。
「おい、どうしたナナリー!?」
慌てたようなヴァッシュさんの声が店内から響いて、俺も慌てて店内に入った。
ナナリーさんはカウンターに突っ伏してぐったりしていた。
「体温が少し高いようですね……。高熱というほどではないですが。」
俺は額に手をあてて熱を測った。おまけにこの暑いのに汗をかいていない。
「熱中症かも知れませんね。」
「熱中症?なんだそれは。」
この世界の人は熱中症を知らないのか。
「暑かったり、気温がそこまででなくとも湿度が高かったりすると、室内でもなることのある病気です。
汗をかき過ぎたり、逆にかけなくなることがあるんですよ。」
俺がそう言うと、ヴァッシュさんは心配そうにナナリーさんの背中をさすった。
「どこかで横にならせることは出来ますか?俺はその間に、症状を軽く出来る飲み物を作ります。
それを飲んで駄目そうなら、お医者様に見せましょう。」
「2階が住居になっとる。
そこに運ぼう。」
ヴァッシュさんはそう言って、店の奥の扉を開けた。奥が2階に上がる階段になっている。
ヴァッシュさんがナナリーさんを抱えて2階に上がっていった。
「ちょうどいい、湯冷ましがある。」
俺はナナリーさんが火にかけていて、止めたらしき鍋を見た。常温の水でもいいが、この方が溶けやすい。
俺は水1リットルに対し、砂糖30グラム、塩3グラム、市販のレモン果汁を出して、レモン汁を大さじ1入れて混ぜ合わせた。
砂糖は水や塩を吸収しやすくするためのもので、1リットルに対し、20~40グラムほど入れる。
レモンやグレープフルーツを入れると飲みやすくなり、カリウムの補給にもなるので入れているが、なくてもいい。
氷を張ったボウルに、別のボウルを置いて鍋の中身を移し、少し冷やして簡易経口補水液の完成だ。
給仕用の水差しに経口補水液を移し、グラスと共にお盆にのせて、俺は2階へと上がった。
ナナリーさんはベッドでぐったりしていた。
「これを飲ませてあげて下さい。」
ヴァッシュさんがナナリーさんの体をおこす。
「ナナリー、飲めるか?」
俺が口元にグラスに注いだ経口補水液をあてがうと、少しずつだが飲み始めた。
そしてだんだん勢いよく、ゴッゴッゴッと飲み始める。おかわりを要求されて渡す。
「美味しい……なにこれ。」
「ナナリー!」
「それが美味しく感じるということは、体調が悪いということですよ。」
俺が部屋にいることにようやく気がついたらしい。ナナリーさんがハッとして真っ赤になる。
そういえば緊急事態かつ、お身内がそばにいたとはいえ、女性の部屋に気軽に入ってしまったのだ。申し訳なかったな。