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第21話 フライドオニオンとブラックペッパーのクッキー(酒のツマミ)③

 今日はクッキーを作る予定だ。焼き菓子を祖母と作っているのだから、基本的な作り方は見たことがあるだろうが、俺はアーリーちゃんの為に型抜きを出してあった。

 お星さまやらハートやら犬の形やら。

 子どもならきっとワクワクする筈だ。

 高い椅子に乗せてやって、タンクから水を出して手を洗わせてやる。


 今日はもう一つ、酒好きのアーリーちゃんの祖父、ガーリンさんの為に、酒のツマミになるクッキーを作る予定でいた。

 アーリーちゃんに型抜きさせる分の生地は既に作ってあるが、これは一緒に作る予定なので、まずは材料を準備する。


 スライスチーズ、フライドオニオンを出し、薄力粉、砂糖、バター、ブラックペッパー、粉ふるい、ボウル、ゴムベラ、ラップ、鍋を準備する。これだけだ。

 まず薄力粉を粉ふるいでふるっておく。ザルでもいいし、100均で買えるものでじゅうぶんだ。俺も普段はそれを使っている。


 ダマをなくしたり、均一に混ぜ合わせたり、空気を含ませる為の目的で、これをするとしないとでは結果が大きく異なるのだ。

 料理と違ってお菓子づくりは化学なので、手順が異なると、同じ状態にはならない。大切な手順のひとつだ。


 バター50gを弱火で加熱して溶かす。耐熱容器に入れて電子レンジでやってもいい。

 様子を見ながら溶かすので、俺はこのほうが楽だというだけだ。

 バターが熱いうちにスライスチーズ2枚をくわえて、手早く混ぜて溶かしてやる。


 溶けたら砂糖を小さじに半分程度加える。甘くしないので味を引き立てる隠し味程度だ。

 よく混ぜ合わせたら、ふるって置いた薄力粉をくわえて、ゴムベラで軽く混ぜ合わせてやる。ここからはアーリーちゃんと一緒にやる。


 ひとかたまりになるまで混ぜたら、それを2等分し、片方にフライドオニオン、片方にブラックペッパーを混ぜ込む。

 フライドオニオンは作ってもいいのだが、今回は市販のものを出した。油を切るのに時間がかかるからだ。


 フライドオニオンのほうは丸い棒状に、ブラックペッパーのほうは長方形にのばす。

 ラップで包んで1時間ほど冷蔵庫で休ませる。

 その間に型抜き用の生地を出して机に広げてやる。

 案の定、アーリーちゃんは俺の広げたクッキーの元になる粉の板に、楽しげに型抜きを押してクッキーを作った。


 ほぼ押せるところがなくなったが、まだやりたそうだったので、生地を練り直して再び平たく広げてやる。

 また楽しそうに型抜きを始めた。

 170度に予熱してあったオーブンに、天板に並べたクッキーを入れて、15分ほど焼く。

 さましたらクッキーの完成だ。


 クッキーを食べながらお茶にする。ミルクをタップリと使ったミルクティーだ。

 アーリーちゃんはどれから食べようと、ウンウンうなりながら、最終的にお星さまの形を手に取った。

 2人でクッキーを食べながらおしゃべりをする。うん、いい出来だな。


 その間に天板を洗い、再びオーブンを余熱する。冷蔵庫に寝かせてあった生地を取り出して、丸い棒状にしたものをサラミのように太めに切り、長方形に伸ばしたものを棒状にカットして、オーブンで焼く。

 それを籠に敷き詰めてふきんをかぶせ、ウイスキーを携えて、アーリーちゃんを自宅に送り届けた。


 玄関で出迎えてくれたガーリンさんが、俺の見せたシングルモルトを見てニヤリとする。俺もニヤリとする。後ろで奥さんのマイヤーさんが、仕方ないわねえ、という表情で笑っている。

 マイヤーさんの作った夕飯をいただきつつ、楽しくおしゃべりをする。


 アーリーちゃんは既に眠たくなったらしく、うとうとし始めたので、マイヤーさんが部屋に寝かせにいった。

「そろそろやるか。」

「いいですね。」

 マイヤーさんがお皿に並べなおした、クッキーとグラスを持ってきてくれる。


 今日はマッカランを準備した。珍しい酒を飲んでみたいとガーリンさんが言った為、俺の世界の酒を用意したのだ。

「うん!こいつはいいな。」

「しょっぱいのも合いますけど、甘いのもいいでしょう?」


 アーリーちゃんと作った型抜きクッキーのあまりも持ってきていたのだ。

 酒というのは甘い物に意外と合う。菓子を作る時に、ウイスキー、ブランデー、はては日本酒なんてのも使うことがある。

 当然飲むのにだって合うのだ。


「今度から甘いものを見るたび、酒が欲しくなっちまうな。」

 そう言いながら、ガーリンさんがウイスキーをあおる。

「だめですよ、いい年なんですから、程々にしてくださいね。」

 マイヤーさんが、ガーリンさんからグラスを取り上げる。


「これで、この分で今日は最後にするから!」

 ガーリンさんの必死の頼みに、仕方ないですねえ、とグラスを戻してくれる。

 なんだかんだ、仲がいいのだ。

 俺は仲のいい夫婦をツマミに、笑いながら酒を飲み干した。

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