今日はクッキーを作る予定だ。焼き菓子を祖母と作っているのだから、基本的な作り方は見たことがあるだろうが、俺はアーリーちゃんの為に型抜きを出してあった。
お星さまやらハートやら犬の形やら。
子どもならきっとワクワクする筈だ。
高い椅子に乗せてやって、タンクから水を出して手を洗わせてやる。
今日はもう一つ、酒好きのアーリーちゃんの祖父、ガーリンさんの為に、酒のツマミになるクッキーを作る予定でいた。
アーリーちゃんに型抜きさせる分の生地は既に作ってあるが、これは一緒に作る予定なので、まずは材料を準備する。
スライスチーズ、フライドオニオンを出し、薄力粉、砂糖、バター、ブラックペッパー、粉ふるい、ボウル、ゴムベラ、ラップ、鍋を準備する。これだけだ。
まず薄力粉を粉ふるいでふるっておく。ザルでもいいし、100均で買えるものでじゅうぶんだ。俺も普段はそれを使っている。
ダマをなくしたり、均一に混ぜ合わせたり、空気を含ませる為の目的で、これをするとしないとでは結果が大きく異なるのだ。
料理と違ってお菓子づくりは化学なので、手順が異なると、同じ状態にはならない。大切な手順のひとつだ。
バター50gを弱火で加熱して溶かす。耐熱容器に入れて電子レンジでやってもいい。
様子を見ながら溶かすので、俺はこのほうが楽だというだけだ。
バターが熱いうちにスライスチーズ2枚をくわえて、手早く混ぜて溶かしてやる。
溶けたら砂糖を小さじに半分程度加える。甘くしないので味を引き立てる隠し味程度だ。
よく混ぜ合わせたら、ふるって置いた薄力粉をくわえて、ゴムベラで軽く混ぜ合わせてやる。ここからはアーリーちゃんと一緒にやる。
ひとかたまりになるまで混ぜたら、それを2等分し、片方にフライドオニオン、片方にブラックペッパーを混ぜ込む。
フライドオニオンは作ってもいいのだが、今回は市販のものを出した。油を切るのに時間がかかるからだ。
フライドオニオンのほうは丸い棒状に、ブラックペッパーのほうは長方形にのばす。
ラップで包んで1時間ほど冷蔵庫で休ませる。
その間に型抜き用の生地を出して机に広げてやる。
案の定、アーリーちゃんは俺の広げたクッキーの元になる粉の板に、楽しげに型抜きを押してクッキーを作った。
ほぼ押せるところがなくなったが、まだやりたそうだったので、生地を練り直して再び平たく広げてやる。
また楽しそうに型抜きを始めた。
170度に予熱してあったオーブンに、天板に並べたクッキーを入れて、15分ほど焼く。
さましたらクッキーの完成だ。
クッキーを食べながらお茶にする。ミルクをタップリと使ったミルクティーだ。
アーリーちゃんはどれから食べようと、ウンウンうなりながら、最終的にお星さまの形を手に取った。
2人でクッキーを食べながらおしゃべりをする。うん、いい出来だな。
その間に天板を洗い、再びオーブンを余熱する。冷蔵庫に寝かせてあった生地を取り出して、丸い棒状にしたものをサラミのように太めに切り、長方形に伸ばしたものを棒状にカットして、オーブンで焼く。
それを籠に敷き詰めてふきんをかぶせ、ウイスキーを携えて、アーリーちゃんを自宅に送り届けた。
玄関で出迎えてくれたガーリンさんが、俺の見せたシングルモルトを見てニヤリとする。俺もニヤリとする。後ろで奥さんのマイヤーさんが、仕方ないわねえ、という表情で笑っている。
マイヤーさんの作った夕飯をいただきつつ、楽しくおしゃべりをする。
アーリーちゃんは既に眠たくなったらしく、うとうとし始めたので、マイヤーさんが部屋に寝かせにいった。
「そろそろやるか。」
「いいですね。」
マイヤーさんがお皿に並べなおした、クッキーとグラスを持ってきてくれる。
今日はマッカランを準備した。珍しい酒を飲んでみたいとガーリンさんが言った為、俺の世界の酒を用意したのだ。
「うん!こいつはいいな。」
「しょっぱいのも合いますけど、甘いのもいいでしょう?」
アーリーちゃんと作った型抜きクッキーのあまりも持ってきていたのだ。
酒というのは甘い物に意外と合う。菓子を作る時に、ウイスキー、ブランデー、はては日本酒なんてのも使うことがある。
当然飲むのにだって合うのだ。
「今度から甘いものを見るたび、酒が欲しくなっちまうな。」
そう言いながら、ガーリンさんがウイスキーをあおる。
「だめですよ、いい年なんですから、程々にしてくださいね。」
マイヤーさんが、ガーリンさんからグラスを取り上げる。
「これで、この分で今日は最後にするから!」
ガーリンさんの必死の頼みに、仕方ないですねえ、とグラスを戻してくれる。
なんだかんだ、仲がいいのだ。
俺は仲のいい夫婦をツマミに、笑いながら酒を飲み干した。