俺は朝からトレント狩りに、馬車に乗って近くの町まで来ていた。
トレントが木を操って森を塞いでいる為、森の中で狩りも出来ず、隣の町にも行かれないらしい。
町についてさっそく、冒険者ギルドに挨拶の為に顔を出す。
トレントの場所を聞くと、森に向かう道順を教えてくれた。
1人なんですか?と受付嬢に驚かれたが、毎度のことなので気にしないことした。
森はうっそうと生い茂り、木の枝と枝が近い距離で絡み合って、まったく日が差し込まずにジメジメしていた。
これは木にもよくないし、他の動植物にもよろしくないな。
トレントはこの方が暮らしやすいのだろうか?
森の奥へと進んでいくと、まったく鳥にも獣にも、他の弱い魔物にすらも、遭遇しないことに驚いた。
生態系がボロボロだな……。
どうもトレントが出没するというのは、人間だけの問題ではすまないようだ。
このあたりの筈なんだが……。
トレントはかなり幹も枝も太い樹木の姿かたちをしており、おまけに顔がある。
一見してそうと分かると言われたのだが、どうにも普通の木々しか見当たらない。
そう思いながら進んでいくと、突如として日の光がさす場所に抜けた。
「こりゃあ……。」
トレントはその中央に鎮座していた。
目を閉じて眠っているかのようだったが、確かに目と鼻と口と思わしき切れ込みが幹に刻まれている。
屋久島に旅行に行った際に、推定樹齢7200年と言われる世界遺産の縄文杉を見たが、とてもじゃないが、それをはるかに凌駕する太さの幹。
ざっと3倍以上はある。
当然枝も太く、トレントを避けるかのように、周囲に木々が間をあけて生えていた。
これが樹木の王と言われる、木の悪霊の魔物、トレントか……。
目と思われる切れ込みの間の少し上に、イボのように少し出っ張った箇所がある。
あの奥にコアがあるのだ。
俺は離れたところから、静かに腹ばいになり、ブローン姿勢で慎重に狙いを定めた。
相手が寝てくれているというのは非常にありがたい。動物も魔物もいない環境は異常だったが、それらのせいでトレントに気づかれるという心配もなかった。
だが一応、盾を出して横に置いておく。
オリハルコン弾一発。正確に眉間を貫く。
トレントが、クワッという表情で、カッと目を見開く。死なない!?
よく見ると、眉間のイボのところでオリハルコン弾が止まっている。
この太さの幹だ。相当皮が分厚く硬いのだろう。一撃では仕留められなかった俺は、立て続けにオリハルコン弾を眉間に向けて発射する。
腹ばいの姿勢は狙いを安定させやすい。何度も同じ場所にオリハルコン弾を打ち込んでやる。
だがトレントは、オオオオオオ!という雄叫びにも似た声を上げて体を震わせながら、地面から根っこを引っこ抜いて、スックと立ち上がった。
足があるのか……!
ズシーン、ズシーンと音をさせながら、こちらへと向かってくる。
まずい。動きこそ鈍いものの、あの巨体に当たられたら、こんな盾では防げないだろう。
オリハルコン弾はすべて木の皮で防がれ、奥のコアに届いていないようだった。
俺は落ち着いてゆっくりと、木の皮に刺さったオリハルコン弾を狙った。
正確無比にオリハルコン弾に、オリハルコン弾が当たり、木の皮の奥に銃弾をめり込ませる。
トレントは、オオオオオオ!という雄叫びを上げながら光をまとい、その光が飛散すると同時に、あたりにドロップ品を撒き散らした。
「ふう……。」
俺はひとごこちついて、ドロップ品をかきあつめ、アイテムバッグに入れた。
……多くないか?
とても50ではきかない数だ。
散らばったものを拾い集めるだけでも、かなり時間がかかった。
その時、ズシーン、ズシーン、と再び音がして、明るかった森に影がさした。
見上げると、別のトレントがゆっくりとこちらに近付いて来るではないか。
先程よりも一回り小さいが、明らかにトレントだ。
番いだったのか!
俺は慌てて残りのドロップ品をアイテムバッグにしまい、トレントと距離をとって、再び腹ばいになって、ブローン姿勢でトレントを待ち構える。
眉間を一発。やはり倒れない。同じように、木の皮に刺さったオリハルコン弾の上に、オリハルコン弾を当ててやる。
先に当たったオリハルコン弾が押し込まれて、同じように光を飛散させてドロップ品を撒き散らした。
「危なかったな……。」
それにしても、先程のトレントほどではないが、やはりドロップ品が多い。
聞いていた数よりもかなり多いのだ。