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第20話 牛肉のしぐれ煮(常備菜)と、それを使った肉うどん(讃岐うどん)③

 俺は冒険者ギルドに取ってかえすと、受付嬢に、あの3人組は嫌なので、他が紹介出来るようになったら教えて欲しいと頼んだ。受付嬢は困惑しながらも、分かりましたと頷いてくれた。


 代わりに他のクエストを受けることにした。盾のことを考えると、かなり稼がなくてはならない。稼げそうなクエストを聞くと、トレントというAランクの木の魔物がオススメだと言われた。


 他の木を操って動かす力を持ち、再生能力が高く魔法を使い、近接職と魔法使いの場合、弱点属性攻撃でないと倒すのに時間がかかるが、コアと呼ばれる眉間の中心にある核を壊せばすぐ死ぬらしく、弓使いに人気の魔物らしい。確かに俺向きだと言える。


 元は精霊が悪霊化したものらしく、死ぬと本体を持ち帰ることは不可能だが、様々なものをドロップという形で落とすのだという。魔石はもちろんのこと、木の枝──これを退治の証拠として持ち帰るらしい──や、ステータスを上げる実を撒き散らして消えるのだとか。


 このステータスを上げる実というのが、冒険者や王宮勤めの兵士たちからかなり人気で、高く買い取って貰える。

 一度にドロップする数は8~30個。レベルに応じて最大で54個まで例があるらしい。


 特に知力を上げる実は大変レアで、一個で小白金貨もするらしい。それでも基礎ステータスを上げる方法の少ないこの世界では、魔法使いの火力に影響する為、出回ればすぐになくなってしまうのだそうだ。


 冒険者はみんな金持ちそうだからな……。ステータスを上げて更に楽に稼ごうということなのだろう。俺はトレントのクエストを受けることにした。いい実がドロップすれば、一気に盾まで手に入るかも知れない。


 トレントのわいている場所までは、馬車でかなりかかるという。

 夜は雇える馬車がないので、今から行った場合、現地で泊まりになってしまう可能性がある。俺はトレント退治は明日にすることにして、残りの時間は料理をすることにした。


 今日は食事をかねて常備菜でも作るかなあ。休みの日に作っておくと、弁当をつめる時や、ちょっと飲みたい時に便利なんだよな。俺は牛肉の切り落とし、生姜、小ねぎ、冷凍讃岐うどん、イリコを出して、醤油、みりん、酒、塩、砂糖、かつお節、昆布、薄口醤油、七味唐辛子、キッチンペーパーを準備した。


 鍋に300ミリリットルの水をはり、イリコ5匹、昆布を3センチほどの大きさのものを入れ、30分ほどつけておいてから火にかける。沸騰する直前に昆布を取り出して、かつお節を加えたら、弱火で更に5分煮て、蓋をしたまま1分蒸らしたら、キッチンペーパーを入れたザルで濾してよけておく。


 しょうがは肉の1/10の重さ分、皮をむいて千切りにする。鍋に牛肉300グラムに対して、醤油大さじ4、みりんと酒をそれぞれ大さじ3、砂糖を大さじ2と混ぜ合わせ、中火で火にかける。濃いめの味付けなので、苦手な人は各調味料を少し減らして欲しい。


 沸騰する手前で牛肉を加え、箸でほぐしながら、少し火を弱めて汁気を飛ばしながら煮詰めていく。牛肉は脂身が多い部分でなければ何でもいい。安いから癖で切り落としにしただけだ。殆ど水分がなくなったら、牛肉のしぐれ煮の完成だ。


 鍋に作っておいただし汁を戻し、薄口醤油大さじ1、みりんと砂糖を各大さじ1/2、塩を少々加えて沸騰させたら、冷凍讃岐うどんを投入して、ほぐしながら1分茹でる。お湯で別に茹でてもいいが、俺は一緒にやってしまう。


 器にうどんを盛って、上に牛肉のしぐれ煮を乗せ、刻んだ小ネギを散らして七味唐辛子を少し振ったら肉うどんの完成だ。

 余った牛肉のしぐれ煮は、冷蔵と冷凍に分けて保存しておく。冷蔵で一週間、冷凍で一ヶ月もつ。油が固まってしまうので使う時は必ず加熱して使う。


 肉うどんにするにはちょっと濃い目の味付けではあるが、常備菜を使って作る時はこの味付けだ。普通に肉うどんにするなら、醤油と酒とみりんは肉300グラムに対して大さじ2、砂糖は小さじ1にする。


 うどんをずるるっとすする。ここの讃岐うどんは冷凍でも歯ごたえがあってうまいんだよなあ。やっぱりうどんは歯ごたえがないと、腹にたまらないし味もぼんやりしていると感じてしまう。


 わざわざ割り下を作らなくとも、市販のめんつゆやうどんつゆでも構わないし、俺も時間がない時はそうしている。時間があるのでついつい手間のかかるやり方をしてしまうのだ。料理は自己満足。だが、それがいい。最後の汁一滴まで飲み干して、俺は幸せなため息をついた。

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