今日は土に苦土石灰が馴染んだ頃なので、朝から土作りを再開した。
土作りで重要なのは、保水性、排水性、通気性が良いという、ちょっと矛盾にすら聞こえる状態を作ることだ。
微生物の排泄物や粘液により、細かな土の粒子がくっついて、小さな団子状になっているものが、集まっているのが最高とされる。
この団子状の土の中で水分が保たれ、団子と団子の間に適度な隙間があって、排水性と通気性をよくするのだ。
この状態でないと土が原因で根腐れなどをおこしてしまい、植物が育たなくなる。
触るとフカフカしていて、気持ちのいい寝床にしてやることが大切なのだ。
最初の準備として、既に苦土石灰をまいてある。だがここの土は粘土質のものが混ざっていた為、このままだと根腐れをおこす土になってしまう。
そこで、土を30cmほど掘り起こしたあとで、底が見えなくなるくらいの、たくさんの腐葉土と鶏糞に加えて、川砂を重ねてゆき、混ぜ合わせながら更に土を耕してゆく。
これでもまだ水はけが悪ければ、土を盛って畝を作ってやればよい。
野菜ごとに好むPH値や土の配合は異なるが、俺は農家ではないのでそこまでのことはしない。
これでまた一週間くらいしたら、野菜をうえられる状態になる筈だ。
俺はとりあえず、キュウリ、トマト、トウモロコシ、ナス、白菜、キャベツ、ブロッコリーを植えるつもりでいる。
父が毎年この時期になると植えていた野菜で、俺も毎年必ずこれだけは植える。
夏休みの朝食は、いつも朝採りの野菜だった。みずみずしく甘いキュウリに味噌とマヨネーズをつけて、トマトは塩で。それを腹いっぱい食べてしまうくらい美味かった。おやつはトウモロコシだ。
キャベツは最初は春先にだけ植えていたが、夏、冬と専用の品種が出るようになってからは、夏も冬も植えるようになった。
それぞれに味が違って、春先は生で食べたほうが美味く、冬は加熱したほうが美味い。夏はその中間という感じだ。
今から収穫を楽しみにしながら、俺は土作りを終えた。これをいつか自分の家族としたいと思いながら、結局今日まで独身を通してしまった。自分の子どもにも同じように、土作りから家庭菜園を教えて一緒に収穫するという夢は、もう10年も前に諦めた。
まだ日が高かったので、俺は近くの武器防具屋に来ていた。Sランクに対抗出来る防具がどんなものかを確認する為だ。
「どうも。何をお探しで?」
武器防具屋の主人は元は冒険者だそうで、大変いかつく、頼りになりそうだった。
「今度Aランクに上がることになりまして……。年に1度はSランクのクエストに強制参加と言われて、Sランクに対抗出来る防具がないかと……。」
「武器はお探しじゃないんで?」
「武器は心当たりがあるんですが、それも一応教えていただけるとありがたいです。皆さんどんなものをお使いなんでしょう?この店には置いてますかか?」
そう言うと、主人は残念そうに首を振った。
「Sランクは基本、どこの店でも店頭取り扱いがないんですよ。
素材を手に入れて注文制作になるんで、店頭には置いてないんでさ。」
「そうなんですか。」
まあ、オリハルコン銃も目玉が飛び出るような金額だし、店頭に常に在庫として置くのは無理なのかも知れないな。
前世だって、警備員もいない、保険会社や警備会社と契約もしてないような店に、高いものは置かないものな。
「ちなみに素材はどんなものを?」
「ミスリルは魔物によりますね。
万能なのはアダマンタイトとオリハルコンですがね、値段はその分高いですよ。」
やっぱりそうか。
「硬度がミスリルよりも高くて無属性のアダマンタイト、属性付与可能かつアダマンタイトよりも硬度の高いオリハルコン、って感じでさ。」
「属性付与はみなさんどんなふうに?」
「1つの武器に属性は1つしか付与出来ねえんで、近接職組は魔物の弱点属性ごとに属性付与の武器を使い分けてんですよ。
弓使いなんかは弓矢ごとに属性を付与させたりしてまさあ。」
つまり俺の場合、弾丸ごとに属性付与弾を作れるということか。
「盾はどうなんですか?
1度属性を付与させると、それはもう別の属性を付与出来なくなるんですか?」
「そいつも武器と同じで、属性ごとの耐性をつけるか、全属性にするなら、属性限定よりは下がりますが、魔法耐性を付けるかですかね。オリハルコンにするなら、最初は魔法耐性をつける人が多いですよ。なんせ高いですから。」
「ミスリルなら属性耐性をつける、と。」
「ただ物理防御がアダマンタイトやオリハルコンよりも弱いんで、魔物によっては魔法は防げても、通常攻撃は防げない、なんてこともありまさあ。まあAランクまでならミスリルでじゅうぶんですがね。」