「はあ、まあ……。」
美人だが化粧が濃くて、香水か何かの匂いが臭く、この店には不似合いで、なおかつ胸元の防具が大胆にあいていて、大きな胸を見せつけてくる。普通は下に何か着るものじゃないのか?あんなんで守れるのか?
「……どう?今夜、アタシと。」
は?
こんな真っ昼間っから、初対面の男相手に夜の誘いだと?酒場じゃないんだぞ、どうなってんだ、この世界の常識は。
「いえ、結構です……。」
俺は嫌なものを見た、という表情で、目線も合わせずそれを断った。
「なっ……!」
断られるなんて予想外だったのだろう。女性の顔が怒りと羞恥で真っ赤に染まる。
「はーい、おまちどお。」
その時ナナリーさんが、おかわりのスープを持ってくる。
「パンは?」
「お願いします。実にうまいですね。
ご自分で考えられたんですか?」
「え?ええ。
お母さんが作ってくれたものに、自分なりに改良を加えて……。」
「酒と生姜がきいてますね。」
「はい、その組み合わせにたどり着くのには、結構苦労しました。」
ナナリーさんとは朗らかに話している俺に、女性が、ダンッ!と机を叩き、ナナリーさんがビクッとする。
「──ちょっと、アタシより、こんな女の方がいいって言うの?」
腕組みしながら俺とナナリーさんを睨む。
俺はちょっと女性を睨みながら、
「ええ、そうですね。
臭い匂いを漂わせて、派手な露出で場所もわきまえず男を口説く女性より、美味い飯が作れて、笑顔の明るい女性の方が、俺は好みですよ。」
「え?ええっ?えっと……。」
急に話題に巻き込まれてナナリーさんがオロオロしている。
実際これは本音だ。俺は一緒に暮らすなら、食の好みがあって愛嬌のある女性と決めている。価値観が合わないとキツイのだ。
「こんな太って年食った女のどこがいいのよ!この店にいる男は、全員アタシの方がいいって言うに決まってるわ!」
ナナリーさんが落ち込んだ表情を見せる。
「……いい加減にせんか。うちの孫娘と友人に絡むのはやめてもらおう。」
ヴァッシュさんが女性を睨む。
「そうだぞ、帰れ!ナナリーさんになんてこと言うんだ!」
「一晩寝るだけならお前を選ぶかも知れねえけど、嫁に貰うならナナリーさんだ!」
「えっ、ええっ!?」
店の常連客たちもワイワイと騒ぎ出し、ナナリーさんはますますオロオロしだす。
女性は悔しそうに俺たちを睨むと、
「出てくわよ!」
と叫んでドアに向かった。
「あ、あの、お代……。」
「後ろの男たちが払うわ!」
「おい、待てよ、ミーシャ!」
カウンターにいた男たちが、慌ててミーシャと呼ばれた女性を追いかけつつ、
「すまんな、これ、全員分だ。」
と、金を払って出ていった。
「あ、あの、私、奥に戻りますね!」
ナナリーさんは照れたような表情で、カウンターの奥へと消えて行った。
「兄ちゃん、若いのに見る目あんな。」
「けど、ナナリーさんは駄目だぜ?滅多な奴には渡せねえからな。」
職人らしき男たちが口々にそう言ってくる。
「意外と人気あるんじゃな、あいつ……。」
ヴァッシュさんが驚いたようにそう言った。
「実際素敵な人ですよ。」
俺は微笑みながらヴァッシュさんに言う。
「……本気か?」
「はい。」
「ジョージがもう少し年齢が上か、ナナリーがもう少し若ければ、くっつけたいとこだが、さすがに釣り合いが取れんわい。」
ヴァッシュさんは残念そうに言った。
俺の元の年齢なら、釣り合いが取れるどころか、若過ぎるくらいなんだがなあ。
いつもニコニコしていて料理がうまく、家族と仲のいい女性というのは、俺のような年齢の男ほど安らげるのだ。家の中でがなり立てられること程嫌なことはない。
この店の常連客たちも、それを求めてここに来ているのだろう。
ナナリーさんが人気というのも無理からぬことだと思った。
それでもあの年まで独身なのは、奥手そうなところが原因なんだろうな。
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