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第19話 ネギ塩ルルクス(トマト)ムルソー(こごみ)のお浸し、チーク茸(エリンギ)とオーク肉(豚肉)のオイスターソース③

「はあ、まあ……。」

 美人だが化粧が濃くて、香水か何かの匂いが臭く、この店には不似合いで、なおかつ胸元の防具が大胆にあいていて、大きな胸を見せつけてくる。普通は下に何か着るものじゃないのか?あんなんで守れるのか?


「……どう?今夜、アタシと。」

 は?

 こんな真っ昼間っから、初対面の男相手に夜の誘いだと?酒場じゃないんだぞ、どうなってんだ、この世界の常識は。


「いえ、結構です……。」

 俺は嫌なものを見た、という表情で、目線も合わせずそれを断った。

「なっ……!」

 断られるなんて予想外だったのだろう。女性の顔が怒りと羞恥で真っ赤に染まる。


「はーい、おまちどお。」

 その時ナナリーさんが、おかわりのスープを持ってくる。

「パンは?」

「お願いします。実にうまいですね。

 ご自分で考えられたんですか?」


「え?ええ。

 お母さんが作ってくれたものに、自分なりに改良を加えて……。」

「酒と生姜がきいてますね。」

「はい、その組み合わせにたどり着くのには、結構苦労しました。」


 ナナリーさんとは朗らかに話している俺に、女性が、ダンッ!と机を叩き、ナナリーさんがビクッとする。

「──ちょっと、アタシより、こんな女の方がいいって言うの?」

 腕組みしながら俺とナナリーさんを睨む。


 俺はちょっと女性を睨みながら、

「ええ、そうですね。

 臭い匂いを漂わせて、派手な露出で場所もわきまえず男を口説く女性より、美味い飯が作れて、笑顔の明るい女性の方が、俺は好みですよ。」


「え?ええっ?えっと……。」

 急に話題に巻き込まれてナナリーさんがオロオロしている。

 実際これは本音だ。俺は一緒に暮らすなら、食の好みがあって愛嬌のある女性と決めている。価値観が合わないとキツイのだ。


「こんな太って年食った女のどこがいいのよ!この店にいる男は、全員アタシの方がいいって言うに決まってるわ!」

 ナナリーさんが落ち込んだ表情を見せる。

「……いい加減にせんか。うちの孫娘と友人に絡むのはやめてもらおう。」


 ヴァッシュさんが女性を睨む。

「そうだぞ、帰れ!ナナリーさんになんてこと言うんだ!」

「一晩寝るだけならお前を選ぶかも知れねえけど、嫁に貰うならナナリーさんだ!」

「えっ、ええっ!?」


 店の常連客たちもワイワイと騒ぎ出し、ナナリーさんはますますオロオロしだす。

 女性は悔しそうに俺たちを睨むと、

「出てくわよ!」

 と叫んでドアに向かった。

「あ、あの、お代……。」


「後ろの男たちが払うわ!」

「おい、待てよ、ミーシャ!」

 カウンターにいた男たちが、慌ててミーシャと呼ばれた女性を追いかけつつ、

「すまんな、これ、全員分だ。」

 と、金を払って出ていった。


「あ、あの、私、奥に戻りますね!」

 ナナリーさんは照れたような表情で、カウンターの奥へと消えて行った。

「兄ちゃん、若いのに見る目あんな。」

「けど、ナナリーさんは駄目だぜ?滅多な奴には渡せねえからな。」


 職人らしき男たちが口々にそう言ってくる。

「意外と人気あるんじゃな、あいつ……。」

 ヴァッシュさんが驚いたようにそう言った。

「実際素敵な人ですよ。」

 俺は微笑みながらヴァッシュさんに言う。


「……本気か?」

「はい。」

「ジョージがもう少し年齢が上か、ナナリーがもう少し若ければ、くっつけたいとこだが、さすがに釣り合いが取れんわい。」

 ヴァッシュさんは残念そうに言った。


 俺の元の年齢なら、釣り合いが取れるどころか、若過ぎるくらいなんだがなあ。

 いつもニコニコしていて料理がうまく、家族と仲のいい女性というのは、俺のような年齢の男ほど安らげるのだ。家の中でがなり立てられること程嫌なことはない。


 この店の常連客たちも、それを求めてここに来ているのだろう。

 ナナリーさんが人気というのも無理からぬことだと思った。

 それでもあの年まで独身なのは、奥手そうなところが原因なんだろうな。


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