「ほ……本当にいいのかね?」
あなたたちがそういう人だから、俺も作りたくなるんですよ。
うまいものと喜びを分かち合う。俺の目的はそれだけだ。素直に喜んで食べてくれるから、つい嬉しくなってしまうんです。
とは言わなかったが。
「食べてみたかったが言えなくてね。
本当に嬉しいよ。みんなも大喜びする筈だ。」
変に恩にきたり、負担に感じることなく、ただ食べてみて欲しい料理を交換する。
俺の求める人間関係はそうしたものだ。
「息子が出稼ぎから帰って来たら、ぜひ息子の料理も食べてみて欲しい。
宮廷料理人にはかなわないと思うが、あいつの料理は俺の自慢なんだ。」
ラグナス村長は嬉しそうにそう言う。
はい、ぜひ、と俺も笑顔になった。
家に戻って準備をしていると、村人たちが訪ねて来た。俺は作っておいた料理を渡すと、みんな一様に笑顔になる。
「マンジさん、この間いただいた料理おいしかったです。」
「本当かい?こんなおばあちゃんの料理を喜んでくれて嬉しいねえ。」
マンジさんは少女のように顔をほころばせる。
「俺のプナキュアはどうだった?」
漁師のセザンさんだ。
「あれ酒のツマミに最高ですね!
今度は一緒に飲みましょう。」
「だろう?自慢の漁師飯さ。」
へへへ、とセザンさんが笑う。
その後ろで、祖母に隠れながらモジモジしている女の子がいる。
「アーリーちゃんのくれた焼き菓子、とてもおいしかったよ。
今度一緒にお菓子作りしないかい?」
アーリーちゃんがパアッと顔をほころばせる。両親が出稼ぎに出ていて、祖父母に育てられているらしく、いつも寂しそうだ。
小さい女の子と何して遊んだらいいか分からないが、お菓子作りなら、俺も教えてやれるしな。
アーリーちゃんと菓子作りの約束をして、俺は村のみんなと別れた。
俺は残った食材を、別の食べ方で食べてみることにしていた。卵、昆布、白菜、水菜、エノキ、しめじ、長ネギ、小ネギ、焼き豆腐を出して、ポン酢と、紅葉おろしと、ご飯、土鍋を用意した。
ケルピーの魚部分はふぐの身と同じなので、しゃぶしゃぶにするのだ。
昆布の表面を、軽く濡らしてきつく絞った布巾でふいてやる。表面の白い粉は旨味成分なので、強く擦ったり洗ったりしてはいけない。土鍋に昆布を入れて30分水につけておく。
野菜とキノコを適当な大きさに切っておく。何だって合うから何でもいい。俺が白菜やキノコを好きというだけだ。豆腐のかわりに葛切りでもいい。
小ネギは小さく輪切りにしておく。
土鍋を中火にかけて沸騰直前で昆布を取りだす。これは後で料理に使うので保存しておく。
まずはケルピーを薄くそぎ切りにした切り身をしゃぶしゃぶにして、ポン酢と紅葉おろしでいただく。
ここで冷やしておいたビールを出して飲みながら食べる。あ〜〜。美味いな〜〜。
ケルピーの旨味が出た鍋に、野菜とキノコと豆腐を投入して、野菜が煮えたら火が通った物から食べる。厚めに切ったケルピーの切り身も入れて、一緒に巻いて頬張る。
あっふ!ウマ!
最後にかるく水洗いしてザルにあけておいたご飯を投入する。普段はしないが、フグの場合ご飯の粘り気で汁が濁ると旨味がボヤける気がするからだ。弱火にして溶き卵を回すようにかけ入れたら、蓋をして2分蒸らし、小ネギを散らして、シメのケルピーの雑炊の完成だ。
そのまま食べてもうまいし、少し味付けが薄いので、ポン酢をかけて食ってもいい。
普段の雑炊なら塩を入れて味をととのえるが、フグに塩を足すと何だか主張が強過ぎて風味が楽しめない気がしてしまうのだ。
最後のビールで残りを流し込んで、すっかり大満足した俺は、珍しく明日のワイバーンのことなど考えずに寝たのだった。
────────────────────
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。