「──はい、どうぞ。」
中に油紙を敷いた、木の皮を編んだ弁当箱のようなものに、ママガッソを入れて俺に手渡してくれた。
「ここの料理はあなたが作ってるんですか?」
俺は弁当箱を受け取りながらナナリーさんに尋ねる。
「はい、だいたいは。
気に入っていただけて良かったです。
またいらして下さいね。」
ナナリーさんはニッコリと笑った。
いい腕だなあ。それに朗らかで感じがいい。いい店を紹介してもらったと、俺は嬉しくなった。
定食屋は中年以上の味方だ。普段食べる家庭料理をだしてくれる、くつろげる店というのは少ない。
ヴァッシュさんが毎日来ているというのもうなずける味と雰囲気だった。
「俺も少し料理をするんです。
今度良かったら、ママガッソのお礼に食べていただけませんか?」
俺はそんな風に聞いてみた。
「そうなんですか?
ええ、ぜひ。」
ナナリーさんがそう言って笑う。
味の好みが似ているから、きっと気に入ってくれるだろう。俺はそう言いながら、既にナナリーさんに、何を作ろうかなと思案しだしていた。
料理を作ってくれた人の為に作る料理は楽しい。少なくとも、料理対決なんかよりもずっと。
商標登録には日数がかかる為、食器洗浄機作成は後日ということになった。
俺はヴァッシュさんと別れ、その足で更に冒険者ギルドへと向かった。食材に使った魔物討伐依頼を受け、数を減らしつつ金を稼ぐ為だ。
サラマンダーとケルピーは近いところに生息しているが、ワイバーンは離れた場所に出没するらしい。サラマンダーとケルピーの単独討伐を同時に受注する。Bランクでは、実力的に可能と判断されている俺だけの特例らしい。
さすがに暗くなるので、討伐は明日改めて行くことにして、今日は譲って貰ったママガッソで飲むことにした。
今日は疲れたし、夕飯は軽く済ますか。
俺は素麺、豚ひき肉、長ネギ、水煮筍、キュウリ、生姜、梅干し、鰹節、小ネギを出し、醤油、酒、みりん、味噌、サラダ油を用意した。
長ネギと同量の水煮筍をみじん切りにし、フライパンで豚ひき肉100グラムをサラダ油で炒めたら、豚ひき肉が白っぽくなる前に、長ネギと水煮筍を加えて炒め、そこに酒、みりん、味噌を各大さじ1、醤油を小さじ1加えてざっくりと全体に熱が加わる程度に炒める。
その間に横で鍋に火を沸かして、キュウリを1本の半分程度千切りにしておく。
素麺を袋の表示時間茹でて手早く水で冷やしてやる。鍋の半分までお湯を入れると吹きこぼれることはない。
吹きこぼれそうになってもさし水を入れたり、茹でた素麺を氷水につけるのはNGだ。コシがなくなる。
茹でた素麺にキュウリと炒めた肉味噌を重ねるように乗せる。
生姜を一欠片をすりおろし、梅干し1個を細かく切って、小ネギ1本を細かく輪切りにする。お椀にそれを入れたら、上に鰹節をひとつまみかけて、醤油を少々入れてお湯を注いだら、夏バテ対策肉味噌パワー素麺のつけ汁の完成だ。
俺は素麺単体なら1度に250グラム食べてしまうが、今日はママガッソもあることだし、150グラムにしておいた。
パワー素麺をモリモリと頬張る。
素麺はうまいけど栄養バランスが悪いから、たまにはこうして手を加えて食べないとなあ。
素麺を食い切ったら、ウイスキーと炭酸と氷を出してハイボールを作った。ウイスキーと氷を入れたグラスのふちから、そっと静かに炭酸を注いでやると、シュワシュワを泡の弾ける気持ちのいい音がする。
ママガッソを口に運ぶと、ハイボールをグビッとあおる。
発酵食品はそもそも酒に合うものが多いが、これはビールでも日本酒でもなくハイボールだなと思ったが正解だったな。
俺はクリームチーズの味噌漬けも、ビールよりハイボール派なのだが、ママガッソがハイボールに実によく合う。
今度作り方を聞いて家で再現してみたいな。クリームチーズの味噌漬けも作っておくか。
俺は色々あった今日一日の心地よい疲れを、酒と共に喉の奥に流し込んだ。