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第16話 サラマンダーのスープ、ケルピーの雑炊、ケルピーの馬刺しと刺し身、ワイバーンの唐揚げ、サラマンダーの旨辛炒め④

「今回の勝者は……、ジョージ・エイトさんとします。」

 ラグナス村長たちが、さすがジョージだ!と、わっと小躍りする。

 それを驚愕の眼差しで見ている隣村のスパイク村長。


「──決め手はケルピーの刺し身という料理でした。

 肉や魚を生で食べる美味しさという、新しい発見をジョージは我々にもたらしてくれました。ぜひジョージも宮廷料理人に迎えたいと我々は考えています。」


「いや……、俺は趣味で料理をしているだけなので、仕事でやるつもりはありません。

 せっかくですが、お断りさせてください。」

 俺がそういうと、審査員たちは酷くガッカリした顔をした。


「あなたはどこかに店を持っていないのですか?」

「ええ、たまにおすそ分けする程度で、自分が食べる分を作るだけです。」

 それを言うとますますガッカリした顔をする。


「ジョージ、君の家に、今度遊びに行ってもいいかい?

 ぜひ、またお互いのレシピを交換しよう。」

 ロンメルさんが笑顔でそう提案してくる。俺はもちろんだと答えた。俺たちは勝ち負けなど気にせず、とても和やかなムードだった。


 だが穏やかでないのは隣村のスパイク村長だ。

「分かっているだろうな?スパイク。

 わざわざ王宮勤めの方々を審査員に招いて負けたんだ。

 ちゃんと謝罪してもらおうか。

 それと、向こう1年間の収穫半分だ。

 お前が提案したんだからな?

 きっちり守って貰おうか。」


 そう言うラグナス村長に、青ざめた表情になるスパイク村長。

「……本当に申し訳なかった。

 このとおりだ。

 だが、収穫は勘弁して欲しい。

 村が死んでしまう。」


 スパイク村長は泣きそうになっていたが、ラグナス村長は駄目だ、と突っぱねる。

 まあ、こちらが負けたら奪う気でいたのだから、当然といえば当然だが。

「許してやって下さいラグナス村長。

 そのかわり、2度と村に絡んで来ない約束をさせるということでどうですか。」


 俺の提案にも、ラグナス村長はまだ渋っていた。恨みが相当根深いんだろうな。

「……認めていただけないのであれば、俺が食材をスパイク村長の村に届けますよ?

 俺に負けたせいで隣村の人たちが死んだ、なんて、寝覚めが悪すぎますからね。」


「ま……、まさか、ジョージ、スパイクの村に料理を?」

「……まあ、それもあるかも知れませんが。」

 スパイク村長の村人たちが、互いに顔を見合わせながら、むしろその方がいいんじゃ?とざわつき出す。


「だ、駄目だ!

 ……分かった。

 ゆるそう。

 だが、2度と我々の村に関わらないで欲しい。子どもの頃から本当にうっとうしかったんだ。お前の顔なんて、2度と見たくないよ。」


 ラグナス村長は腕組みしながらため息をついた。

「分かった……。

 ありがとう、すまない。」

 スパイク村長はついに泣き出してしまった。


「あなたはとても若いのに、こんなにハンサムで、料理の腕も凄くて、おまけに人間が出来ているのですね。

 本当に感心するわ。」

 審査員長の女性が微笑みながら俺にそう言った。


「──ハンサム?誰がだ?」

 俺が首をかしげると、呆れたようにロンメルさんが、

「ジョージ、お前だよ。」

 と言った。


「ちょっと、誰か鏡を貸してくれないか?」

 俺は自分の顔を見てみたくなった。

「……まさか、自分の顔を見たことがないのか?」

 その場にいた全員が驚愕の表情で俺を見てくる。


 俺の家には確かに鏡がなかった。

 この体は女性ホルモンが多いのか、ヒゲが伸びてこないので、見る必要がなかったのだ。

 以前の体の時も、ヒゲを剃るときくらいしか鏡なんて見なかったし、俺は自分の顔をマジマジ確認する習慣がない。


 シャツの襟首と袖口が汚れてなくて、ヒゲがそってあれば、そんなに鏡を見る中年男性は存在しないと思うんだがな。

 ……なんだこの顔は。

 俺は鏡を貸して貰うと、女性陣がジロジロ見てきた理由を、ようやく理解したのだった。

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