「今回の勝者は……、ジョージ・エイトさんとします。」
ラグナス村長たちが、さすがジョージだ!と、わっと小躍りする。
それを驚愕の眼差しで見ている隣村のスパイク村長。
「──決め手はケルピーの刺し身という料理でした。
肉や魚を生で食べる美味しさという、新しい発見をジョージは我々にもたらしてくれました。ぜひジョージも宮廷料理人に迎えたいと我々は考えています。」
「いや……、俺は趣味で料理をしているだけなので、仕事でやるつもりはありません。
せっかくですが、お断りさせてください。」
俺がそういうと、審査員たちは酷くガッカリした顔をした。
「あなたはどこかに店を持っていないのですか?」
「ええ、たまにおすそ分けする程度で、自分が食べる分を作るだけです。」
それを言うとますますガッカリした顔をする。
「ジョージ、君の家に、今度遊びに行ってもいいかい?
ぜひ、またお互いのレシピを交換しよう。」
ロンメルさんが笑顔でそう提案してくる。俺はもちろんだと答えた。俺たちは勝ち負けなど気にせず、とても和やかなムードだった。
だが穏やかでないのは隣村のスパイク村長だ。
「分かっているだろうな?スパイク。
わざわざ王宮勤めの方々を審査員に招いて負けたんだ。
ちゃんと謝罪してもらおうか。
それと、向こう1年間の収穫半分だ。
お前が提案したんだからな?
きっちり守って貰おうか。」
そう言うラグナス村長に、青ざめた表情になるスパイク村長。
「……本当に申し訳なかった。
このとおりだ。
だが、収穫は勘弁して欲しい。
村が死んでしまう。」
スパイク村長は泣きそうになっていたが、ラグナス村長は駄目だ、と突っぱねる。
まあ、こちらが負けたら奪う気でいたのだから、当然といえば当然だが。
「許してやって下さいラグナス村長。
そのかわり、2度と村に絡んで来ない約束をさせるということでどうですか。」
俺の提案にも、ラグナス村長はまだ渋っていた。恨みが相当根深いんだろうな。
「……認めていただけないのであれば、俺が食材をスパイク村長の村に届けますよ?
俺に負けたせいで隣村の人たちが死んだ、なんて、寝覚めが悪すぎますからね。」
「ま……、まさか、ジョージ、スパイクの村に料理を?」
「……まあ、それもあるかも知れませんが。」
スパイク村長の村人たちが、互いに顔を見合わせながら、むしろその方がいいんじゃ?とざわつき出す。
「だ、駄目だ!
……分かった。
ゆるそう。
だが、2度と我々の村に関わらないで欲しい。子どもの頃から本当にうっとうしかったんだ。お前の顔なんて、2度と見たくないよ。」
ラグナス村長は腕組みしながらため息をついた。
「分かった……。
ありがとう、すまない。」
スパイク村長はついに泣き出してしまった。
「あなたはとても若いのに、こんなにハンサムで、料理の腕も凄くて、おまけに人間が出来ているのですね。
本当に感心するわ。」
審査員長の女性が微笑みながら俺にそう言った。
「──ハンサム?誰がだ?」
俺が首をかしげると、呆れたようにロンメルさんが、
「ジョージ、お前だよ。」
と言った。
「ちょっと、誰か鏡を貸してくれないか?」
俺は自分の顔を見てみたくなった。
「……まさか、自分の顔を見たことがないのか?」
その場にいた全員が驚愕の表情で俺を見てくる。
俺の家には確かに鏡がなかった。
この体は女性ホルモンが多いのか、ヒゲが伸びてこないので、見る必要がなかったのだ。
以前の体の時も、ヒゲを剃るときくらいしか鏡なんて見なかったし、俺は自分の顔をマジマジ確認する習慣がない。
シャツの襟首と袖口が汚れてなくて、ヒゲがそってあれば、そんなに鏡を見る中年男性は存在しないと思うんだがな。
……なんだこの顔は。
俺は鏡を貸して貰うと、女性陣がジロジロ見てきた理由を、ようやく理解したのだった。