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第16話 サラマンダーのスープ、ケルピーの雑炊、ケルピーの馬刺しと刺し身、ワイバーンの唐揚げ、サラマンダーの旨辛炒め③

「釘の頭に凹みがあって、それを回すと外せるものです。留め外しが出来ますから、ネジを使えば、何も解体しなくとも……。」

「そんなようなものは、聞いたことがないですね。」


 なんと。この世界にはネジがないのか。

 魔道具なんてものがあるのに、便利なようで不便な世界だな。

 まあ、誰かが発明しなきゃ、存在しないわけだが、ちょっと釘の頭に切り込みを入れる程度のことを、考える人間が今までいなかったのか。


 これは購入するより、ネジを使った食器洗浄機を、工房で新しく作って貰った方がいいな。いちいち電池が切れるたびに新しいものを買うようなものだ。

 電池を交換出来る蓋を作って貰おう。


 俺はそう考えながら料理の続きを始めた。

 ワイバーン肉は以前作った、時短の味付けで漬け込んだものを、唐揚げにしてゆく。

 ケルピーは馬刺しと刺し身にした。

 馬刺しはにんにくと生姜をつけて。魚の部分はフグのような味だったので、小ねぎと紅葉おろしを巻いてポン酢で食べて貰う。


 ケルピーの魚の部分の骨に近い部分の身は雑炊にして溶き卵を加えた。

 1時間ともなると作れるのはこんな程度だ。完全に食材の力に頼ったが、生で食材を食べる習慣がないというこの世界の人たちに、受け入れられるかが勝負の鍵だ。


 審査員の前に料理が並ぶ。まずはロンメルさんの、マンドラゴラの炒めものと、ミノタウロスの柔らかステーキ、クラーケンの親子和えだ。かなりの高級食材らしく、審査員がおお、と唸る。


 特にマンドラゴラが珍しいらしく、審査員のうち男性2人は初めて食べるらしい。

 審査員と一緒に俺もご相伴に預からせて貰う。ワクワクしながら食べると、一見太い切り干し大根にしか見えないマンドラゴラからしみ出す旨味に驚く。


 まるでタンを噛みちぎっているかのような歯ごたえ、なのに味付けをすべて吸い込んだ吸収力、ほんのりとした酸味と甘味に、少し強い塩気がたまらなくて酒が飲みたくなってくる。

 これが植物の魔物だって?とんでもないな!


 あっという間にマンドラゴラを食べてしまい、ミノタウロスに取り掛かると、唇で切れる程に柔らかい。これを短時間で仕上げたのか。圧力鍋のようなものがあったとしても、この柔らかさは普通の鍋で4日は煮ないと出せない。カレーに入れたら美味いだろうな。


 クラーケンの親子あえは、クラーケンの卵と肉を湯引きして、火を通し過ぎずに食感を活かしたことで、卵はポリポリ、肉はプリプリと、違った食感が楽しめる。クラーケンはイカのような味だが、船で捌いたイカ刺しのような、柔らかすぎない、ちゃんと歯ごたえのあるところが最高だった。


 続いて俺の番になり、サラマンダーのスープ、ケルピーの雑炊、ケルピーの馬刺しと刺し身、ワイバーンの唐揚げ、サラマンダーの旨辛炒めの順で出した。単に味の濃さの順だが、喜んで食べていた審査員の手が、馬刺しと刺し身で止まった。


 やはり生は抵抗があるのだろうか……?

 だが、ロンメルさんが美味そうに食べているのを見て、恐る恐る口に運んだ途端、審査員の目が丸くなり、バクバクと一気に食べだし、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 審査員が1度控室に戻ると、ロンメルさんが俺に小声で話しかけてきた。

「料理はどちらで学ばれたのですか?」

「両親が主ですが……、あとは前の職場の人たちや、行きつけの店だったり、色々ですね。」

 それを聞いたロンメルさんが驚く。


「料理人でもない人たちが、あれだけのレシピを考えられたのですか?」

 俺の世界ではよく食べられているものばかりで、特に珍しくもない。そうですね、と頷くと、あなたの故郷の方たちは、皆さんとても料理がお好きなのですね、と微笑んだ。


 そうして審査を待っている間に、俺とロンメルさんは互いのレシピを教え合い、すっかり仲良くなった。

 審査員が戻って来てテーブルに付き直すと、俺とロンメルさんは背筋を伸ばして審査結果が告げられるのを待った。


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