これは楽しみ過ぎる。料理対決がなければ知るのはもっと先になっていたことだろう。
アイテムバッグに入れておけば、食材が傷むこともない。対決の日までいくつか料理法を試しつつ食べてしまおうかな。
食べ尽くしてしまったとしても、また狩ればすむ話だしな……。
いや……。
ワイバーンを狩るのは危なかったことを思い出し、俺の心は揺れる。
だが、転生時に料理に関するスキルのみを求めた俺だ。
未知の味に対する誘惑に勝てるわけがなかった。
ここはもうあれしかないだろう。
俺はゴボウ、白菜、長ネギ、セリ、舞茸、エノキ、白滝、木綿豆腐、キリタンポ、薄口醤油、すり鉢、すりこ木、秋田杉の串を出して、醤油、酒、みりん、塩、顆粒出汁、ご飯、キッチンペーパー、貰ってきておいたワイバーンの骨を準備した。
ワイバーンの骨を圧力鍋に長ネギの緑の部分とともに入れてスープを作り、ザルにあけてキッチンペーパーで濾してやる。
ゴボウはささがきにして水にさらす。
長ネギの白い部分を斜め切りにし、セリも同じくらいの長さに切りそろえる。セリがなければ三つ葉でもいい。
ワイバーンの肉を一口大に切り、舞茸とエノキは食べやすい大きさに千切る。
白菜は食べやすい大きさに切って、白滝は一周ぐるっと巻いて穴にくぐらせる感じで縛る。
ご飯は今回当然あきたこまちだ。これを粘り気があり、ご飯の粒が3割ほど残る程度の半殺しに、すり鉢のなかですりこ木で潰してやる。これを100グラムほどに小分けにしたら、秋田杉の串に巻くようにつけて、塩水で形を棒状に整えていく。串の代わりに箸でもいい。
焼きムラが出来ないよう、両手で転がすように均等にしたら、フライパンに薄く油を塗り、焦げ目がつくまで全体を回しながら、中火寄りの弱火でじっくりと20分ほど焼いてやり、熱いうちに串を抜いてキリタンポを作る。
薄口醤油と酒とみりんを60ミリリットル、醤油120ミリリットルスープに入れたら、ワイバーンの肉、舞茸、エノキ、ゴボウを先に鍋に入れてひと煮立ちさせたら、キリタンポを半分に千切ったもの、長ネギ、セリ、白菜、白滝を加えて煮る。火が通ったらキリタンポ鍋の出来上がりだ。
1回食べてみたかったんだよなあ、本物の比内鶏。……まあ、厳密に言えば本物じゃあないんだが。
ご飯が余ったらキリタンポを作って冷凍しておくと、いつでもキリタンポ鍋が食べられる。
ちなみに実家で最もよく作る鍋は、上からほうとう、豆乳鍋、キリタンポ鍋である。
味噌汁はあご出汁と鰹出汁、味噌は白味噌7割に赤味噌3割。白味噌だけのこともある。好きな味噌汁の具は大豆を水に浸してトンカチで平たく潰した打ち豆。
お好み焼きは片面だけお好み焼きにして、味のついていない焼きそばの麺と、千切りしたキャベツと豚コマとベーコンを乗せて、生卵を上から割ってひっくり返したものに、マヨネーズとソースをかけたものをオカズに白飯を食べる。
よく出るうどんは稲庭か讃岐うどん。歯ごたえのない太めのうどんは嫌いだ。
母の得意料理はゴーヤチャンプル。好きなお茶請けは梅干しといぶりがっこ。茶碗蒸しは丼で作る。
炊き込みご飯よりおこわとイカ飯が好きで、好きなおやつはずんだ餅といも餅。
日曜日にはよくタコパしていて、たこ焼き器が家にある。
よく、どちらの出身ですかと聞かれるが、うちは代々東京だ。
俺が子どもの頃にはどこもそんな家庭はなかった。あちこち旅行に出かけては、うまいと感じたものを家庭料理に取り込むのは、我が家の風習みたいなものだ。
俺の食い道楽は遺伝なのである。
ワイバーンは本当に鳥肉そのものだった。噛みごたえのある肉から、噛みしめるたびにしみだしてくるうまみ。それを吸ったキリタンポと野菜やキノコがまあたまらない。
俺はキリタンポ鍋を堪能しながら、対決のことなんてすっかり頭から吹っ飛んでしまったのだった。