朝になり、俺は山に登ると、サーカスで置かれているような、大きな獣用の檻を出して置いた。
もしも水色のスライムのように、オークも出せるものであるのなら、この檻の中にオークを出して、罠にハマった動物にトドメをさす時と同じやり方をする為だ。
家のそばでやらないのは、住宅街で銃声をさせるわけにはいかないからだ。俺はライフルを用意して、檻の中をイメージし、オークを出した。──檻の中に緑色の人型の豚、オークが現れたかと思うと、ブオオオオォ!と吠えた。
やはりこの力は魔物も出せるのだ。しかし人型の魔物とは聞いていたが、本当に手足は人間のそれだ。これを倒して解体するとなると、大分気持ちが悪いが、これも食物連鎖というものだ。俺は檻の中のオークめがけてライフル弾を発射した。
俺は頭を狙ったのだが、ライフル弾はオークの体内の奥深くまで入らずに、少し額に傷をつけただけで弾かれて手前に落ちた。
──!!!!!?
皮膚が硬いのか?
オークは更に吠えて俺を威嚇した。
通常のライフルで倒せないとなると、50口径の対物狙撃ライフルを出すことになるが、対人に使用すると遺体の損傷があまりに酷いので、対物狙撃ライフルと呼ばれているくらいのシロモノだ。倒せても肉が食べられないのでは意味がない。
だが、この世界の冒険者たちが倒しているのだから、倒す方法があるわけだ。
俺は1度オークを檻ごとアイテムボックスにしまうと、最初にオーク肉の料理をお裾分けしてくれた、ラズロさんの家を訪ねることにした。
ラズロさんは仕事で出かけていていなかったが、ティファさんが笑顔で出迎えてくれた。
「すみません、お尋ねしたいことがあって来たのですが。」
「はい、なんでしょう?
──あ、昨日のお料理いただきました、とても美味しかったです、ごちそうさまでした。」
「あ、いえいえ、お口にあったのでしたら良かったです。
以前お裾分けしていただいたオーク肉の料理なのですが、どなたかから肉を分けていただいたとおっしゃってましたよね?」
「はい、この村で冒険者をやっているアスターさんが譲って下さいました。」
「その方を紹介していただけませんか?」
「構いませんよ?
朝にお見かけしたので、今日はクエストも受けてないと思いますから、ご自宅にいらっしゃると思います。」
ご案内しますね、と言って先に立って歩くティファさんの後ろについていった。
アスターさんは快く俺を出迎えてくれた。
とても体格がよく、剣士をしているらしい。今までの料理もどれも美味かったが、豚肉の柔らかい固まりが一番美味かったよ、いつもありがとう、と言ってくれた。角煮のことか。時間はかかるが、オークが倒せたらまた作ってみるか。
「さっそくなんですが、オークを倒したとお伺いしましたが、それはどのようになさったんですか?
俺も最近冒険者を始めたのですが、倒し方のコツをお伺いしたくて。」
俺はアスターさんの出してくれたお茶に口をつけた。少し渋いがうまい。
〈ロザンフィ茶〉
ロザンの新芽と若葉を乾燥させて煮詰めて薄めたもの。滋養強壮の効果がある。
ほーお。面白いお茶があるんだな。
「オークかい?
あれは魔法使いに皮膚を傷付けて貰うか、デバフで防御力を下げて貰わないと、普通の鉄の武器じゃ刃が通らない、皮膚が硬くて地味に手強い魔物さ。
俺のパーティーにはデバフの使える弓使いがいてね。そいつに防御力を下げて貰ったのさ。」
防御力を下げるなんてことは俺には出来ないし、魔法も使えない。誰かとパーティーを組まないと無理なのか。
──いや?
「鉄の武器じゃ刃が通らないとおっしゃいましたが、刃が通る武器もあるんですか?」
「あるぜ?
ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンを使った武器がな。」
俺でも聞いたことがあるような、ないような名前だから、恐らく有名なのだろう。