別に普通に揚げてもいいのだが、使い終わった油の処分を考えると、あまり量を使いたくないと思ってしまうのでいつも揚げ焼きだ。
俺はたまに無性にトンカツが食べたくなることがある。俺はこれを発作と呼んでいる。
今日はその日だった。
箸で抑えながら包丁でカットしていく。サクサクと気持ちのいい音がする。
キャベツを剥がして、小さい葉は大きい葉にくるんで、ひっくり返して出来るだけ長く千切りにする。
氷水に入れるとパリッとするが、栄養分が水に流れ出てしまうので俺はやらない。
今日は朝昼兼用で、ワイルドボアのトンカツ、ワイルドボアの角煮、ワイルドボアの爆弾煮だ。
量を作ったし、食べ追わったら後で残りの肉も揚げて、村に持っていこう。
ご飯は既に炊いてある。まずは揚げたてのトンカツだ。ソースに練りカラシを付けて熱々の白飯と一緒にかきこみ、キャベツの千切りを頬張る。
ああ~……。やっぱりイノシシ肉はボタン鍋よりもトンカツだよな。
角煮も口の中でとろけるようにほどけてゆく。うん、いい出来だ。圧力鍋さまさまだな。
爆弾煮も程よく辛くてたまらん。
いかん、酒が飲みたくなってきたな。
少し取っておいて夜のツマミにしよう。
異世界の魔物肉、うまいじゃないか。
こうなると早くオークを狩りたくなってくる。他の魔物の肉も気になるし、山菜もうまかったよなあ。
俺はすっかりこの世界の食材が気に入ってしまったのだった。
すっかり腹いっぱいになり、大満足で朝昼兼用の食事を終えて、俺は村へと向かった。
夕食に合わせて持っていくつもりだから、先に準備してたら悪いと思ったからだ。
ついでにラズロさんから借りていた籠も持っていく。
ラグナス村長の家を訪ねて、肉がたくさん取れたので、料理したものを皆さんにお裾分けしたいと言うと、ラグナス村長は飛び上がるかのごとくに喜んでくれた。
そこまで期待して貰えると作りがいがあるというものだ。
ラズロさんの家を訪ねると、ラズロさんは仕事に出ていていなかった。
ティファさんに籠をかえして、村長のところに、取れた肉を使った料理を夕飯に合わせて持っていくことを伝えると、ティファさんも一瞬飛び上がりそうになった。
喜んだ時に飛び上がりそうになるのは、この世界の人の癖なのだろうか?
俺は家に1度戻って、残りの肉もトンカツにする為に、衣をなじませて準備をしておいた。
暗くなる前にトンカツを揚げていると、俺の家のドアがノックされた。
「──はい?」
ドアをあけると、手に手に皿の入った籠を持った村人たちが立っていた。
一番先頭にはラグナス村長とラズロさんが満面の笑みで立っていた。
「皿を人数分準備するのも、運ぶのも大変だろうと思ってね。
みんなで直接取りに来たんだ。」
「ああ、それは助かります。」
鍋ごと運ぼうと思っていたが、取り分けることを考えたら、その方がありがたいな。
俺はみんなの籠と皿を受け取ってテーブルに並べると、均等になるように、角煮、爆弾煮、ソースをかけたトンカツとキャベツの千切りを入れて練りカラシをそえ、村のみんなに籠を順番に渡していった。
「こっちの皿のは辛いやつなので、お子さんには与えないようにして下さい。」
俺は爆弾煮に対する注意を伝えた。
みんなとても嬉しそうに籠を見ている。
こんなに喜んでくれるなら、また作りたいなと思わせる笑顔だった。
「君の料理は本当に珍しくて美味しいからね。これも食べるのがとても楽しみだよ。」
「そう言って貰えると嬉しいです。
作りがいがありますよ。」
あまりご近所付き合いなんてしない俺だが、この村の人たちとは、うまくやっていけそうだった。