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第6話 ニラレバ炒めとにんにくの芽の和風麻婆豆腐②

「お教えするのはちょっと……。

 それに、お教えしたところで、再現は難しいかと思います……。」

 こちらの世界に、俺たちと同じ調味料がなければ、そもそもどうしようもないわけだしな。


「そうか……。

 ひょっとして、君は料理人かね?

 それならレシピを教えるのは当然嫌だろう。

 どこかで働いているのかね?

 それとも、店を出す予定はないのかね?

 ぜひ、もう一度、君の料理を食べたいんだ。」


 俺は別に料理人というわけじゃあないが、人に食べて貰うのは大好きだ。

 付き合っていた相手や友人相手によく作っていたし、職場の料理好きのメンバーと、弁当交換会なんてのもやっていた。


 そこまで言われると、ちょっと作りたくなってくる。

 それにもし、この世界の通貨や食材と交換してくれるのであれば、俺にとってもウィンウィンだ。


「……同じものばかり作るのは、飽きてしまうので、別のものでよろしければ、構いませんよ。代わりにお代か、何か食材をいただけませんか?お気持ちで結構ですので。」

「本当かね!?ぜひお願いする!」


 俺は昼飯を彼女の父親──ラズロさん──と彼女──ティファさん──の為に作ることになった。

 さて、ようするにだ、ラズロさんは味付けが濃いものが食べたいわけなんだよな。


 それも俺と味付けの好みが似ている。

 となると、やはりあれだろうな。

 俺は豚のレバー200グラム、ニラ、もやし、酒、片栗粉、オイスターソース、木綿豆腐、にんにくの芽、ラー油、木のまな板、キッチンペーパーを追加で出して、クーラーボックスからにんにくを出した。


 ボウルにレバーを入れて、それが漬かる程度の牛乳を注いで漬けておく。20分もやればじゅうぶんだ。

 その間に、木綿豆腐2丁を木のまな板で挟んで水抜きする。べつにざるにあけるのでもいいが、我が家は大体こうだ。


 木綿豆腐を食べやすい大きさに適当に切って、にんにくの芽を適当な長さに切る。俺は小指の第1関節くらいまで、を目安にしている。

 にんにくを油で炒めて香りがしたくらいの頃に、にんにくの芽をくわえて軽く火を通す。にんにくの芽の代わりにネギでもいい。


 味噌とみりんを大さじ3、醤油を大さじ1、砂糖を少々入れてぐるりとかき混ぜたら、水溶き片栗粉でとろみをつける。

 木綿豆腐を投入し、とろ火で温めて木綿豆腐に熱が加わったら、お好みでラー油をかけて、どんぶりに盛って和風麻婆豆腐の完成だ。


 牛乳に漬けておいたレバーを水で洗い、キッチンペーパーで水気を拭き取って、酒と醤油とチューブの生姜を少々加えてボウルに戻し、下味の為に5分ほど置く。

 これでレバーの臭みが消える。


 にんにくをひとかけみじん切りにし、ニラを食べやすい大きさに切っておく。

 下味がついたら、レバーに片栗粉をまぶしてやる。この手順がないと食感も変わるし、レバーに味が絡みにくい。


 フライパンにサラダ油を引いて熱し、にんにくを入れて香りが立ったら、レバーを並べ入れて両面をこんがりと焼いてやる。

 1度レバーを取り出して、切っておいたニラともやしをひとつかみ加えて、強火で手早く火を通す。


 レバーを入れたままでもいいが、混ぜにくいのと、レバーは火を通し過ぎると、逆に独特の臭みが出てしまうので、俺はいつもこうしている。

 レバーに火を入れる時は短時間。これがコツだ。


 もやしとニラがしんなりしてきたら、レバーを戻して、酒と醤油とオイスターソースをそれぞれ大さじ1と、砂糖少々を、小鉢かなんかで混ぜ合わせておき、回すようにかける。汁気がなくなるまで炒めればレバニラ炒めの完成だ。


 半分は俺の分にすることにして、俺はラズロさんの分を取り分けておいた。

 そこにちょうど家のドアをノックする音がする。ドアを開けると、期待に満ちた表情をしたラズロさんが、空の籠を持って立っていた。


「タイミングがいいですね、今ちょうど出来たとこですよ。」

 俺は籠を受け取って、中に、こぼれないよう、それぞれどんぶりに盛った、ニラレバ炒めと和風麻婆豆腐を入れた。


「ありがとうございます。

 この地の食材に興味がおありのようでしたので、明日の朝、娘に届けさせます。

 野菜と山菜は特に、朝つまないと味が落ちますからな。」


「確かに。

 とても楽しみです、こちらこそありがとうございます。

 期待にそう味だといいんですが。」

 俺はラズロさんに籠を手渡した。


「いただきます。」

 俺はラズロさんが帰ったあとで、おひつからご飯を出して茶碗によそい、昼飯にすることにした。

 ニラレバ、一時期ハマって毎日のように作ったっけなあ。


 単品で酒のツマミにしてもいいし、アツアツご飯と一緒にかきこんでもいい。

 本当に優秀だ。

 ニラレバをメインにしたから、肉なしの和風麻婆豆腐を作ったが、やはりにんにくの芽は歯ごたえがあって、食べごたえがあるのがいいな。


 昼飯を食べ追わり、網戸と格子を作る続きをしていると、また我が家のドアがノックされた。

 ラズロさんがどんぶりをかえしに来たのだろうか?

 俺がなんの気無しにドアを開けると、そこにはたくさんの見知らぬ人たちが、目を輝かせて立っていたのだった。

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