目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第6話 ニラレバ炒めとにんにくの芽の和風麻婆豆腐①

 俺は呆れたように目の前の人物を見下ろした。

 昨日確かに、若い女性1人で男の家に来るなと言った筈なんだがな。

 目の前の女性はニコニコしながら、何やら手にフキンか何かを被せた籠を手にしていた。


「ちょっと作り過ぎてしまって。

 良かったらいかがですか?

 このあたりで取れる山菜とキノコと、うちで育てた野菜を使ってるんです。

 オーク肉を分けていただいたので、それも使って。」


 ──このあたりの山菜?オーク肉?

 俺はその言葉に過敏に反応した。

 地のものを食べたいと思っていたところにこれである。

 野菜も果たして俺たちの世界と、同じものであるとも限らない。


 オークってのは、確か立って歩く豚の魔物だったか。以前ファンタジー好きの友人が、オーク肉がうまいというのはテンプレなんだとか言っていた気がする。

 俺はゴクリと喉を鳴らした。


 俺はその魅力に逆らえなかった。

「……ありがとうございます。

 ありがたく頂戴します。

 少し待っていていただけますか?」


 彼女の持って来た籠を受け取ると、俺はいったんドアをしめて、皿の上の料理を自分の皿に移して、彼女の持って来た皿を洗うと、そこにスペアリブのビール煮と、切り干し大根の煮物をのせた。


 再びドアを開け、籠を彼女に渡す。

「うちもちょうど作り過ぎてしまったものがあったので、良かったらどうぞ。」

 彼女は驚いたように籠を見つめたあと、ニッコリと微笑んだ。


「ありがとうございます。

 家族でいただきますね。

 じゃあ、失礼します。」

「──はい。それじゃあ。」

 まあ、悪い子じゃないんだろうが、親にちゃんと、ここに来ることを言ってから来ているのかだけが、俺は気になった。


 ちょうど朝食がまだだったので、さっそくありがたくいただくことにする。

 食材はどれも見たことのないものばかりだった。

 俺はワクワクが止まらなかった。


 神様から貰ったスキルで確認すると、

〈チーク茸〉

 ナサルス地方で取れるキノコ。

 主にマランダの木の根元にはえる。

〈ムルソー〉

 ゼンマイに似た形の山菜。

 味はコゴミに似ている。

〈ルルクス〉

 収穫期間は主に春から夏。

 ほおずきに似た形の実がなる。

 主に味付けに使われる。

〈オーク肉〉

 最上級の豚肉に似た味。

 と表示された。


 レシピを確認すると、〈ララカ煮〉ナサルス地方の伝統料理。オーク肉とチーク茸とムルソーを炒めて、湯剥きして潰したルルクスで味付けされたもの。と表示された。

 料理はまだ温かかった。


 ルルクスは塩気のある、小さめのトマトホールのようなものだった。つまり豚肉とキノコと山菜のトマト煮のようなもののわけだ。


 オーク肉はとても柔らかくて口の中でとけてしまい、味の染みたチーク茸はエリンギのように歯ごたえがあり、ムルソーの爽やかな苦味がアクセントになっていた。


 もとから塩味のついている野菜というのは珍しいな。

 このあたりの土地が塩を含んでいて、それを吸っているのか、それともトウモロコシが甘いように、どこに植えても塩気のある味になるのか、どちらなんだろうな。


 もっと色々なこの世界の食材を食べてみたいな。どこが人の土地か分からないし、この世界の通貨を手に入れて、どこかで買わないといけないな。はてどうしたものだろうか。


 俺は異世界の食材を、うっかりお礼に渡してしまったのだが、これが後に大騒ぎの原因になってしまった。

 俺が発電機を置いている部屋の窓の外に、網戸を設置する為の枠と、室内に侵入者防止の格子を取り付けている時だった。再び我が家の玄関のドアがノックされた。


「──はい?」

 玄関の扉を開けると、彼女が申し訳なさそうに立っていて、その横にあのいかつい父親が立っていた。

「娘にあの料理を渡したのは、あんたというのは本当かね。」


 最悪だ。娘に絡むなとでも言いに来たか。

 俺は小さくため息をついてから、

「──はい。そうですが。

 料理をおすそ分けいただいたので、こちらも何かお返しをと思いまして。」

 と、極力冷静に、彼女に対して何の下心もないのだという、毅然とした態度で言った。


「いったいあの料理はなんだね?

 実に美味かった。

 複雑で濃厚な肉料理があったかと思うと、見たこともない、あれは野菜か?サッパリとしているのに食べごたえのある煮物。

 どうやって作ったのか、どうか教えて貰えないだろうか?」

「──はい?」


 彼女の父親は目をきらきらさせながら、興奮したようにまくしたててくる。

 彼女の持って来てくれた料理の味付けはとてもシンプルなものだった。

 いくつも調味料を使った料理が、ひょっとしてこの世界では珍しいのだろうか?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?