【ラング】
それは、人類の手から最初にこぼれ落ちた領土だった。
今では吸血鬼が占領し、多くの吸血鬼が身を置いている吸血鬼領の中心だ。
そんな場所になぜ人間である俺が連れていかれるのかわからなかった。
だがその場所には案外あっさりと移動できた。
今までのように吸血鬼の数が減ることはなかったのだ。
「ここが…【ラング】…」
そこらじゅうを飛び回っている吸血鬼が目に入る。
争いの後だからかそこらじゅうボロボロの建物が多い。
だからだろうか、空中を飛び回っている吸血鬼がよく見えてしまう。
(これだけの吸血鬼が…人間と争っている…)
目の前の光景に思わず身震いすると飛んでいる吸血鬼の一体と目が合った。
(!)
目が合った吸血鬼は即座に俺の眼前へ飛んでくるとなにやら首筋のにおいをかぐ。
「なんだ…」
吸血鬼はそう吐き捨てるともともと飛んでいた方向に戻っていった。
「……?」
困惑していると俺をここに連れてきた吸血鬼が言った。
「やはりお前は眷属のようだな」
その言葉になんて答えれば正解かわからぬまま俺は移動させられる。あの屋敷では殺されなかったとはいえここで殺されない保証はないが、もう吸血鬼領内に移動している関係上、あきらめるしかなかった。
そもそも見つかったあの日から、俺の選択肢はないに等しい。
もし俺が眷属になっているのなら、俺は本当に殺されないで済むのだろうか。そもそも、眷属になっているのだろうか。
そんな疑問は、吸血鬼領の領主の前で晴らされることとなった。