吸血が終わり重傷だった吸血鬼の体はすぐに再生した。
「ありがとう」
そんな言葉をくれる吸血鬼。
敵を心配し、敵を助け、敵に感謝される人間。
俺自身でさえ、俺の立ち位置が分からなくなっていた。
「なんで俺は…吸血鬼を助けてるんだ…」
一人取り残された部屋の中。いくら考えてもその答えは出なかった。
「それはお前が眷属だからだ」
「!?」
いつの間にか後ろにいた別の吸血鬼はそんなことを言う。
「眷属とは吸血鬼が人間に自身の血液を与えることで誕生する。そのうえで眷属は主から命令を下され、その命令は絶対だ」
「………」
この吸血鬼は要するに、俺はリエの眷属だと言いたいわけだ。
だが、俺はリエに何も命令されていない…はずだ。
「俺は眷属じゃない」
「…命令によって記憶を忘れている…と考えるべきだな」
吸血鬼はあくまでも俺が眷属になっていること前提で話を進める。
「お前が眷属になったのなら、吸血鬼領でも殺されることはない…むしろ歓迎されるだろう」
そう一方的言い残し吸血鬼は俺から視線を逸らす。
「次の目的地は吸血鬼占領地域の【ラング】だ。食料もまだ残っているからな…今のうちに前線から離れるぞ」
吸血鬼はそう宣言し部屋を出ていく。
「謎が多くなっただけだな」
眷属のこと、リエのこと、教会のこと、なぜあの吸血鬼が俺を吸血鬼領に連れて行こうとしているのかも…。
いつまでこの生活が続くのかということも。