太陽は沈み月が昇る。
吸血鬼の魔法による轟音があたりに響く中、館にいた吸血鬼と俺は移動を開始していた。
(早い…)
逆三角形のような隊列を組みすさまじい速度で空中を飛ぶ吸血鬼。俺をまるで物のように担いでいる吸血鬼はちょうど真ん中にいる。視線の先には最後尾であるリエをかろうじてとらえられた。
「振り落とされるなよ!」
俺を担いでいる吸血鬼がそんなことを言うが人間はこんなスピードで空中を生身で移動することなんて不可能だ。
とどろく多くの爆発音。吸血鬼の魔法が人間を攻撃している音…
「血爆」
目の前に降り注いだ巨大な建物のがれき。それを一瞬で消し飛ばし隊列は進んでいく。
吸血鬼は人間とは違い地形を生かした戦い方はしない。
その戦い方は圧倒的な能力量で押しつぶすだけの一方的な戦い。
吸血鬼が日中も活動できるのならば、人間はすでに滅びているだろう。
(…滅びる…?)
人間がいなければ血を入手できないんじゃないのか…?
俺はそれが理由に生かされているはずだ。
(なら…なんで吸血鬼は人間を捕獲ではなく殺戮しているんだ…?)
単純にそれだけの余力がないのかあるいは…何か理由があるのか。
どちらにせよクソみたいな大人が知ってるんだろう。
何か理由があろうとも俺みたいな死にぞこないに知るすべはない。
「来たぞ!教会の人間だ!」
先頭の吸血鬼が号令をかける。するとリエの後ろにほぼ同じ速度でついてくる
特徴的な白い衣装。赤い宝石を身に着けたその人間は持っていた鎌のような武器を最後尾…リエの首めがけて振り落とす。
「……!」
「かまうな!」
リエは鎌を見たことのない力で防御した。そこまでしか見えなかった。
ただ先頭の吸血鬼は移動を優先する。
また、吸血鬼が一人減る。
ただそれだけの事。なのに…
(なんでこんなに…俺は怒っているんだ…?)
自分の変化に気づかぬまま、担がれている俺は前線を移動するのだった。
リエを…失ったまま。