ごくあっさりと奪われた命。
また、目の前で。頭を貫かれ死んでいった。
その亡骸を、さらに貫いた弾丸の数々。
さっきの光景が目に焼き付いている。
いや、どこかで見た景色と重なる。
(ああ…そうだ)
思い当たる記憶を引っ張り出し一人で納得する。
そこまで考えて俺はやっと自分たちが
(吸血鬼は6体…)
一体の吸血鬼は死んだ。
残りは吸血鬼6体と人間一人。
さらには狙撃兵に捕捉されているだろうこの建物で、安全な場所などもはやない。
弾丸が貫通した時点で、その弾丸は確実に頭をとらえてくる。
(一刻も早く移動するしかない…だが移動するには狙撃兵の活動時間外…つまり夜に抜け出すしか…)
夜。それは吸血鬼が狩りをしている時間帯だ。人間の俺にとっては最も危険な時間帯を示す。
「大…丈夫」
俺は自分でその言葉を口から吐き出すと震えを止める。
だが、俺の体にはまだ振動が伝わってきていた。
(初めてなのだろうか)
リエは吸血鬼が狙撃されて以降震えが止まっていない様子だ。
仲間の死を目の前にして恐怖したのだろうか。それとも…
「っつ…!」
リエが手を握る力を強くする。
痛みに顔を上げるとほかの吸血鬼たちの表情が目に入る。
涙を流している者、歯を食いしばっている者、下を向いている者、怒りをあらわにしている者。
表情はそれぞれだったがリエのような表情をした吸血鬼はいない。
「夜を待ってすぐに移動する。全員準備しておけ」
一人の吸血鬼がそう言った。
空気が、より一層重くなる。
「リエ…」
俺が声をかけるとリエは何も言わずに俺のほうを見る。
その眼からは涙がこぼれていた。
リエは、泣いていた。
そんなリエに、吸血鬼の一体は無情にも言った。
「君が最後尾だ」
その言葉の意味はよく分かった。
吸血鬼の特性上。機動力は人間なんかよりもよっぽど高い。故に人間で言う戦闘機のような戦い方になることは俺も知ってる。
つまり…
(相手の後ろを取ったほうが勝つ)
吸血鬼同士の機動力戦は相手の後ろを取ったほうが勝つ。そして最も危険なのが隊列の最後尾だ。
(リエを壁に置く…か)
「この人間はお前より前の人間が持つ」
「………」
その瞬間、リエは俺を抱き寄せた。
「渡さない!」
「お前…その眼…」
吸血鬼が何やら驚愕した声を出したかと思うと別の吸血鬼が言った。
「その人間を死なすわけにはいかない。だが君は一番血力が多い…仕方のないことだろう?」
一拍をおいて続ける
「渡さないというのなら君が彼を全力で守りつつ生き残るんだな」
その言葉にリエの拘束は力なく溶けていくのだった。