『大丈夫』なんてこの戦場にはない。
『怖くない』と言われ安心できる場所なんてないはずだ。
なのになぜかその言葉は俺の中に響いた。
それに妙な懐かしさを感じる。
(あと…何人死ぬんだろうか)
そんな無意味なことを考えながらリエの横を進む。
「ここ」
リエは扉をノックすると鍵穴に指先を向ける。
すると指先から黒い靄が出て鍵穴に入り込む。
「あけた」
扉を手で押し開けると6人の吸血鬼がその先に見えた。
(……!)
リエの手をばれないように少しだけ強く握る。
「来たか…どうやら移動の時間らしい」
見覚えのある吸血鬼は地図をたたみつつそんなことを言う。
他の吸血鬼からの視線が痛い俺は、リエの陰に隠れる。
そんな時だった。
突如、爆音が鳴り響いた。
「!?」
その場にいた全員がとっさに窓を見る。
その窓からは強い光が差し込んでいてその光は頭が痛くなるほどまぶしい。
「なんなんだ…これは…!」
吸血鬼の一人がそう叫んで、壁にでも手をついたのだろう。
その刹那だった。
ズガンと…何かが砕ける音がした。
光になれたその眼がとらえたのは、穴の開いた窓際の壁。
そして、
【頭部から血しぶきを出し倒れる吸血鬼の姿】だった。
「!」
「全員!窓際から離れろ!!」
誰の言葉かわからないがその号令を合図にすぐさま窓際から離れる俺とリエ。
続けざまに同じような音がし見る見るうちに壁に穴が開く。
「クッソ…!」
横たわった吸血鬼はピクリとも動かない。そんな吸血鬼に次々と弾丸が命中する。
何度も何度も撃たれたその吸血鬼の体は、見る見るうちに穴だらけになり、あたりに血だまりを作っていった。
「奥の部屋に逃げる」
リエはそう告げ俺の手を引き走る。
だがその手は、小さく震えていたのだった。