「名前は私たち吸血鬼に大きな意味を与える」
その言葉と同時。目の前の
「こうやって血力なしで服を作れる」
そんな説明をしてくるリエ。
「それだけ…?」
つい口から出てしまったその言葉にピクリと反応するリエ。
「あと約束ができる」
「約束?」
「そう。吸血鬼が人間に。そして人間が吸血鬼に同じ数だけ約束ができる。その約束は絶対まもらなくてはならないっていうルールがある」
一拍を置いてリエは言う。
「人間は死なないで。それだけ」
死ぬなと、敵に言われた。さんざん人間を殺してきたであろう敵に、そう言われた。
俺の、ただ一人の親友を殺した吸血鬼という種族に、そう告げられた。
だというのに…怒りがわかない。
ほんの少し前に同じことを言われたら、俺は確実に怒っていた。
なぜ?
そんな疑問はリエの一言によってかき消される。
「私は約束を言った。次はあなたが言う番」
「あ…俺は…」
唐突に聞かれ考えがまとまらない。
考えることは【どうやったら俺があの吸血鬼たちを利用して生き延びられるか】しかない。
一つの約束というチャンス。無駄にするのはもったいない…
「わかった」
「え?」
俺がいろいろなことを考えていると急にリエは何やらうなずく。
「つまり人間は私に惚れろと言いたいんだな」
「なんでそうなるんだ!」
俺何も言ってないよな…?
ああ。何も言っていない。
自分で考え自分で答えを出しなぜそうなったのかを聞くため口を開く。
「なんで…そうなった?」
「顔に書いてある」
「そんなわけないだろ」
否定するがリエは気にした様子もなくほんのり笑みを浮かべる。
「これで約束はお互いに一つ…成立」
その言葉と同時にリエはベッドから降り部屋を出る。
「そろそろ探索の時間…話し合わなきゃなだから人間はここで…」
「俺も…行く」
恐怖心がないわけではない。吸血鬼という捕食者の群れに自ら飛び込もうというのだ。怖くない方がおかしい。
だが地図を作ってくれた吸血鬼もいる。俺に死ぬなと言ってくる吸血鬼もいる。
そんな思いが俺の口からその言葉を押し出したのだろう。
俺はベッドを降りリエの後ろをついていく。
別に震えているわけではなかった。
数が少なかったとはいえ明確に殺意を持った吸血鬼とは会ったことがある。それに比べればまだマシだ。
だというのにリエは、俺の手を握ってくれていた。
「恥ずかしいからいい」
「大丈夫。怖くない」
俺はその言葉が自分の胸の中で響いてしまうのを感じた。