あれから吸血鬼は様々な質問をしてくる。
具体的には俺がこの館にたどり着いたルートだった。
それらを聞き終えた吸血鬼は動かしていたペンを収める。
「なるほど…これが今の地形か…」
その吸血鬼が書いていたのは地図…俺の証言を基に作成したことになる。
「私たちが知っている地形とは、やはりだいぶ違っているな…」
ここが更地になる前に人間用の食糧を貯え移動するべきだなと、俺が言ったことを肯定した吸血鬼。
「移動するなら【エント】の北に行くのがいい。あそこは一度激戦区になってたけど今は人間が有利の陣地で夜は安全」
この戦場では人間が昼に、吸血鬼が夜に
それをかいくぐるように逃げなければならない。
「お前…見かけはソイツと同じなのに優秀だな」
吸血鬼はそんなことを言う。
俺の隣で寝ている吸血鬼は確かに少女の見た目をしているが、吸血鬼の歳を計るのに見た目なんてあてにならないことは人間誰でも知っていることだ。
「まぁいいさ…地図は作れた。私はこれを仲間たちに共有してくる。次の探索ではお前の食糧を集めてくる予定だからな」
そう言って吸血鬼は部屋を出て行った。
作ろうと思っていた地図を作ってくれたことに感謝しつつ裸の吸血鬼に後ろから抱きつかれている現状をどうにかしてくれなかったことへの恨みを抱く。
そう思っていると唐突に俺を拘束していた腕が外れる。
「?」
寝がえりでもうったのだろうかと疑問に思っていた刹那、俺の視界は回転した。
「は?」
俺の視界には、さっきまで寝ていたはずの吸血鬼の姿が映っている。
「声うるさいから起きた」
無表情で淡々と裸の吸血鬼は俺の目を見て語る。
「あと寒いから」
「服を着たらいいと思う」
「服作れない…」
どうやらまだ血力とやらは戻り切ってはいないらしい。
「あっためて」
そういうと吸血鬼は俺を仰向けになるよう転がし馬乗りになる。
「私を抱いてあっためて」
そう告げた吸血鬼は小刻みに震えながら両腕を広げる。
俺は…どうすればいいんだろうか?
「わかった…」
ひとまず俺はその吸血鬼を抱き寄せる。
吸血鬼の震えはなくなっており、これで正解かと思ったが、
「違う」
と吸血鬼は感情のこもっていない声で言った。
すると吸血鬼は再び馬乗りに戻ると自らの手を
そして出てきた血を指先まで流すと吸血鬼は俺の口に指を突っ込んだ。
「ごっ…!」
唐突に指を押し込まれ吐きそうになる俺。
そんなことお構いなしに吸血鬼は俺の喉奥に自らの血液を流し続ける。
「このぐらい…?」
そんな声と同時、指は抜かれた。
「一体…何を…するんだ…
息も絶え絶えで俺は吸血鬼の抗議する。
が、すぐに違和感に気づいた。
「名前が…」
「それが私の名前だよ」
俺の言葉を遮りそう告げる捕食者。
無表情だった吸血鬼は笑みを浮かべた。