あれからどのぐらい時間がたっただろうか。
聞こえてきていた嗚咽は寝息へと変わった。
吸血鬼は器用にも首筋を噛んだまま寝息を立てて寝ている。
(…抜け出せない…)
首筋に吹きかかる息がくすぐったいのもそうだが、俺はこの館に来る前に整理していた情報を紙に書くため動こうとしている。
まぁ要するに、地図を作るのだ。
だが困ったことに首を
これでは動くに動けない。
「おとなしく…するしかないのか…」
「ま、そういうことだ」
「!?」
小さな独り言に返答され驚いた俺は吸血鬼を起こさないように声がしたほうを見る。
「気に入られてるな」
さっき出て行った吸血鬼ではない…特徴的な長い黒髪をして黒いドレスを身にまとっている女の吸血鬼だった。
というよりあの時に見た吸血鬼は全員女だった。男は戦場に出ているのだろう。
「ああ…あと、後ろは見ないほうがいい。そいつは
「血力切れ…?」
「自己修復と窓枠封鎖に血力を消費してるからな…自身の服を作る血力もないんだろう…」
吸血鬼の服は皆自身の血力で作るからなと、付け加えて教えられた。
「ならなおさら引きはがしてくれな…ませんか」
「残念ながら仲間の快眠を邪魔するほど私は鬼ではない。しばらく抱き枕にでもされておけ」
吸血鬼の言葉に俺が嫌な顔をするのを無視し、部屋にあった机に座り紙とペンを引き出しから出した。
「さて…尋問の時間だ。人間」
そういうと吸血鬼は椅子をベッドの近くに移動させ、それに座り俺を見る。
「お前は…どうやってこの前線で生き残ってきた?」
その一言。たった一言で俺は心臓を鷲掴みにされた気分になる。
それぐらいの
「俺は…ずっとこの前線で、探索を続けて食い物を見つけて食べてきた」
本当にそれだけだ。
俺はその意図を込めてため息をついた。
軍人ならここで情報を渡す前に自ら死ぬんだろうが、俺はそんな力はない。
なら、深手を負ってまで俺を守った吸血鬼。俺が死んだら終わりといった吸血鬼。
それらを利用して生き残るしか、手はない。
「俺が最初にいたのは都市【エント】の中心区画…【ケルン】区にあるショッピングモールの中だった」
そこで10日、テレビ局で10日、そしてこの館に来て数日…
寝ていたせいで時間間隔が分からないがここにきておそらくは3日か?
「なんで10日に1回移動してるんだ?」
当然の疑問を投げかけられた俺は言う。
「その建物は人間によって吹き飛ばされるからだ」
ショッピングモールは新型ドローンによって俺が移動した1日後に崩壊した。
テレビ局は砲撃で俺が移動した1時間後に吹き飛んだ。
「前線で生き残るためにはこまめな移動…逃げるしかないんだよ」
人間は的確に生きてるやつを狙ってくる。
吸血鬼よりもそれは正確なことを俺はつたえる。
「ここもこれだけ生きてるやつがいるなら早めに移動しないと吹き飛ばされるぞ」
「参考にしておこう」
俺の言葉に吸血鬼はそう答えるのだった。