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捕食者

「………」


ここは…


俺はどうやらベッドに寝かせられているらしい。


「ん…」


「?」


唐突に聞こえてきた声の主を確認するべく顔を傾けるとそこにはがいた。


「ん~お腹減った…」


そんなことをつぶやいたかと思うとソレは俺の両腕を抑え込み馬乗りになってくる。


「いただきます」


その瞬間俺の首筋には激痛が走る。


「いっ…!!」


「ふほははいへ…うあふうえあい」


噛みついたままもごもごとしゃべる捕食者は容赦なく俺の血を奪う。


(またかよ…クソ)


「何やってんのよー!」


「っぐぁ!!」


唐突に牙を抜かれ俺は痛みに悶絶する。

が、そんな俺などお構いなしに噛みついた吸血鬼をひっぺがした別の吸血鬼が怒鳴る。


「貧血で気を失ったからベットに横たわらせたのに!探索から帰ってきたあんたが疲れたってここへ勝手に移動したって聞いた時はもしやとは思ったけど…やっぱりまた吸ったでしょ!」


「お腹すいてたから…」


「もし死んじゃったらいよいよ私たちおしまいよ!!」


「吸おうとしたんだけど動かれてうまく吸えなかった…お腹すいた…」


「え?…てことは…」


俺と後から入ってきた吸血鬼の目が合う。


「起きてるじゃないのよ!!ほんとあんたは表情変えないわねぇ!!」


俺は急いでベッドから降りると後ずさりをする。

首から流れる血が垂れ、目の前の捕食者からと本能が告げる。


「っ!危ない!!」


それを叫んだのは後から入ってきた吸血鬼。でも俺を突き飛ばしたのはさっきまで俺を吸血していたほうだった。

その瞬間、パリンと…俺の後ろでガラスの割れる音がした。


「っぐ…いだい…!」


噛み殺したような声を上げるのは俺を突き飛ばした吸血鬼。その右肩からはドバドバと血が流れていた。


「再生できない…!痛い…!!」


肩を押さえて這いつくばる吸血鬼。だが、流れた血はすぐに形を変え窓枠をふさぐ。

何が起こったのか理解できない俺にもう一人の吸血鬼が怒鳴る。


「バカじゃないの!昼間に窓際へ行くなんて…狙撃してくださいって言っているようなものよ!あんたはおとなしく私たちに守られてなさい!」


その言葉を聞いて、ようやく俺は自分が狙撃されたこと。そしてそんな俺をかばい吸血鬼の一体が傷を負ったことを理解した。


「あんたもおとなしくベットに戻る事ね…この子も寝かせるから」


俺はその言葉に逆らう気力はなくなっていた。

おとなしく言われたとおりにベッドに上がる。同時、隣に深手を負った吸血鬼の一体が寝かせられた。


「絶対に動かないように…いいわね」


そう言ってその吸血鬼は部屋を後にする。


「………」


俺は事実をどうすればいいかわからなかった。

隣に寝ているのは俺をかばった吸血鬼だ。だがさっきの、痛みをこらえ涙を流している姿は人間のように思えた。


「ごめん…」


自然と、その言葉が口から出ていた。

自分の歳が2桁になっていたら、違う言葉を投げかけられたのだろうか。

もし学校という場所に行けていたら、このもやもやする気持ちをうまく処理できたのか。


そのもやは、一つの感触によって晴らされた。


「………」


首筋を噛まれたのだ。

でも、今回は痛みはない。牙が貫通している感覚もない。

ただ、俺の首筋を優しくかんだ吸血鬼。

しばらくして嗚咽が聞こえてきた。


俺はその嗚咽を、ただ無言で聞いていた。

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