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吸血鬼と人間
吸血鬼と人間
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異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年01月08日
公開日
1.3万字
連載中
吸血鬼と人間。それは捕食者と獲物という関係に他ならない。
名もなき少年は物心ついた時から戦線の最前線にいた。
と言っても戦闘員としてではない。
ただ、生きるために逃げ回り、息をひそめているだけだった。

そんな少年は、まだ原型が残っている古風な館を見つけると、食料を求めてそこに住み着くことになる。
だが、少年同様この館を根城にしようと目につけていた者たちがいた。

「はぁ…はぁ…」


俺はまだ生きてる。

あの化け物たちが住み始めてから数日間が経過した。


【吸血鬼】


『それは超人的な再生能力と耐久能力を兼ね備え、人の血を吸って生きる化け物である。』


その言葉は今やだれもが知っている。

俺は今…そんな化け物に

物心ついた時にはもう、この町は戦場の最前線になっていた。

両親も消え、一人だった俺は何とか生き延びようと目についた頑丈そうな館へ避難した。


その館には幸い食料も水もあり、数日なら生き延びられそうだった。

だが問題が起こった。


のだ。


人間ではかないっこない化け物。人間よりも高い身体能力と人間の血を吸う特性上、俺が捕まったら最後、何をされるかわかりきっている。


「はぁ…はぁ…」


月明りでうっすら照らされた物陰で息を殺して気配を消す。


(見つかったら殺される)


吸血鬼にとって俺はただの食糧でしかない。

俺がここに食料と水を求めてやってきたのと同じように、奴らもここに来た。

当然といえば当然だった。


(見つからないでくれ…!!)


祈るような願いは、ただ一つの声によって消される。




その声の主は身を隠していたがれきの山を一瞬で吹き飛ばす。

その吹き飛ばされたがれきが顔をかすり、頬から血が出る。

目の前の吸血鬼はそんな俺を見て近寄ってくる。


「来るな!化け物!」


壁を背にして叫ぶが吸血鬼はお構いなしに近づいてくる。


(ああ…死ぬんだ…俺)


脳内でそうつぶやいた俺の顔に吸血鬼の手が触れる。その瞬間、とてつもない力で引き寄せられた。


「!?」


体が密着し、吸血鬼の顔が迫ってくる。


吸血される。


そんな俺の思惑を、目の前の吸血鬼は否定した。


「……?」


吸血鬼は器用にも、俺の頬から流れている血を舌でなめていた。


「足りない…」


「ん!?」


吸血鬼が何かつぶやいたと思えば、その吸血鬼は俺のをかみ、血をすする。

はたから見れば、恋人同士がするような口づけだが、恐怖しか感じない。

この吸血鬼は、血が止まるのが遅い口を狙ったのだ。


(クソ…)


しばらく吸われていると、意識がもうろうとしてきた。

この屋敷で見つけた食料は、お世辞にも健康的とはいえなかった。

そんな食生活が続いていたせいか、普段から貧血気味だった。

そのうえの吸血。

しかも吸血鬼はこいつだけではない。


(終わったか…)


そんな結論と同時、俺の意識は闇に落ちるのだった。



ーーーーーーーーーーーー



「…ん…?」


なぜか俺は目を覚ました。


(死んで…ない?)


「あ…目を覚ました」


「!?」


その声を聴いた俺は即座に飛び起き状況を見渡す。


(1・2・3…)


そこには7体の吸血鬼がいた。


「なんで…俺を生かした!!」


俺は吸血鬼たちに叫ぶ。

奴らの力なら俺一人を殺し血をすすることなど動作もないだろう。

気を失っているならなおのことだ。


俺の問いに、あの時の吸血鬼は言う。


「全員分には、あなた一人じゃ足りない」


そんな答えを返され俺は察した。

要するにこの吸血鬼たちは、俺を飼うことにしたのだ。


ミルクを飲むため牛を飼うように、血を吸うために人間俺を飼う。


(冗談じゃない)


生かされいるだけの命。いつ奪われるかわからない命。生きている心地などあるはずもない。


「お前たちと違って人間はもろいんだ!お前らが飼えると…思うな…」


精一杯の声を上げようとするが、まだ回復しきってないのか視界が歪み崩れ落ちる。

だがそれを吸血鬼の一体が、俺を受け止めたおかげで地面に激突することはなかった。


「あなたはまだ休んでいて。その間私たちが探索してくる」


そういうと俺の血を吸った吸血鬼はコクリと首肯しこの館の玄関へ向かう。

その姿を見送るほかの吸血鬼と一人の少年。


(俺から吸血をした吸血鬼が探索に出かける…ということか)


探索…とは言っていたが前線に出て戦闘しているのだろう。

そう考えていると考えを見透かされたのか、俺を支えた吸血鬼は言った。


「私たちは非戦闘民だから、本当に安全な場所に探索に行くだけよ」


そういうと吸血鬼は優しく頭をなでてくれる。

その不思議な心地よさに俺には睡魔が襲ってくる。敵の前で寝るのは『殺してください』というようなものだが、どうやらこの吸血鬼たちに俺を殺す気はない。それを知って少し力が抜けたみたいだ。


「眠たそうね。寝てていいわよ」


「誰が…寝る…か…」


言動とは裏腹に俺は自分の瞼が重くなるのを感じる。


「まったく…そういう年ごろでもないでしょうに」


かたくなに寝ようとしない俺を見かねてか、俺を支えている吸血鬼は俺を抱き寄せる。

柔らかい感触と、撫でられる心地よさに耐えられるはずもなく、俺の意識は睡魔によって奪われたのだった。



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