「…………そろそろ街へ戻りますか?」
すっかりクロードの姿は見えなくなっていた。
だというのに、ライラがいつまでもぼんやりと突っ立っていると、ふいにエリクに声をかけられた。
ライラはエリクの言葉に返答をする前に、どっとその場に崩れ落ちた。
「ど、どうかなさいましたか⁉」
とつぜんライラが音を立てて地面に膝をついたので、エリクは何事かと慌てふためいている。
「ああ、なんだかすっごく疲れたわ」
深くため息をついて、ライラは地べたに座りこむ。
ライラは口では疲れたと言ってはいるが、清々しい気持ちだったので朗らかに笑っていた。
そんなライラの姿に気が付いて、エリクはほっと胸を撫でおろしたあと、一緒になって笑顔を浮かべた。
「……ずっと心の中に抑え込んでいた気持ちを、ようやく伝えられたのですね」
「うん、そうなのよ。気持ちを伝えるってこんなに疲れるのね」
「言葉を口にするだけと言ってしまえば簡単なことのようですが、気持ちを伝えるというのは難しいですからね。お疲れにはなったでしょうが、すっきりしたのでは?」
「ええ、すっごくすっきりした。なんだかね、これでようやくけじめのようなものをつけられた気がするの」
この土地に流れてきてずいぶんと時間が経ってしまった。だが、これでやっと新しい一歩を踏み出せる気がする。
「……私の人生、ここからもう一度やり直しね……」
ライラは目を閉じると、おもいきり頬を叩いた。
パンと、大きな乾いた音が耳に届く。
「──よし! それじゃ、帰りましょうか」
ライラは目をかっと見開くと、勢いよく立ちあがった。
「そうですね。きっと皆さんお待ちかねですよ」
「ええ、早く帰りましょう」
イルシアやファルが心配して待っているだろう。
きっとマスターには嫌味を言われる。
ライラはクロードが去っていった王都の方角へ背を向ける。
皆が待つ街に向かって、しっかりと自分の足で一歩を踏みだした。