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第16話

「…………そろそろ街へ戻りますか?」


 すっかりクロードの姿は見えなくなっていた。

 だというのに、ライラがいつまでもぼんやりと突っ立っていると、ふいにエリクに声をかけられた。

 ライラはエリクの言葉に返答をする前に、どっとその場に崩れ落ちた。


「ど、どうかなさいましたか⁉」


 とつぜんライラが音を立てて地面に膝をついたので、エリクは何事かと慌てふためいている。


「ああ、なんだかすっごく疲れたわ」


 深くため息をついて、ライラは地べたに座りこむ。

 ライラは口では疲れたと言ってはいるが、清々しい気持ちだったので朗らかに笑っていた。

 そんなライラの姿に気が付いて、エリクはほっと胸を撫でおろしたあと、一緒になって笑顔を浮かべた。


「……ずっと心の中に抑え込んでいた気持ちを、ようやく伝えられたのですね」


「うん、そうなのよ。気持ちを伝えるってこんなに疲れるのね」


「言葉を口にするだけと言ってしまえば簡単なことのようですが、気持ちを伝えるというのは難しいですからね。お疲れにはなったでしょうが、すっきりしたのでは?」


「ええ、すっごくすっきりした。なんだかね、これでようやくけじめのようなものをつけられた気がするの」


 この土地に流れてきてずいぶんと時間が経ってしまった。だが、これでやっと新しい一歩を踏み出せる気がする。


「……私の人生、ここからもう一度やり直しね……」


 ライラは目を閉じると、おもいきり頬を叩いた。

 パンと、大きな乾いた音が耳に届く。


「──よし! それじゃ、帰りましょうか」


 ライラは目をかっと見開くと、勢いよく立ちあがった。


「そうですね。きっと皆さんお待ちかねですよ」


「ええ、早く帰りましょう」


 イルシアやファルが心配して待っているだろう。

 きっとマスターには嫌味を言われる。


 ライラはクロードが去っていった王都の方角へ背を向ける。

 皆が待つ街に向かって、しっかりと自分の足で一歩を踏みだした。
























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