「その件につきましては、私たちの方で対処しておりますから。ライラ殿はどうかご心配なさらず」
少し突き放すような雰囲気で、エリクがそう言った。
協力者になると承諾するまでは言えないこともある、きっとそういうことなのだろう。
「……だからって、そんな態度をとられるのはすっごくムカつくのよね。──ああ、もう!」
ライラはむしゃくしゃして頭を掻きむしる。
すると、どうしてライラが苛立っているのか察しのついていない様子のエリクが、あたふたと慌てだした。それを見ていると、ますます腹立たしくなってしまう。
「……い、一体どうなさったのですか? 体調がすぐれないなら病院に戻られた方がよろしいのでは……?」
「大丈夫! 問題ないから気にしないでちょうだい」
これだから軍人ってのは嫌なのよ、という言葉をライラは飲みこんだ。
どんな仕事をしていて、どのような立場にいても言えないことの一つや二つはあるだろう。だからといって察してくれという態度は気に食わないだけだ。ライラはここ最近とくにそう強く思っていた。
ライラは頭から手を離して深呼吸すると、気持ちを落ち着けてからエリクに向き直った。
「で、本当は何をするためにあなたはここで待っていたのかしら。私に用事があるのでしょう?」
「はい、すっかりお見通しですね」
とぼけた顔をしてそう答えたエリクに、また苛々してしまい彼を睨みつける。そんなライラの視線をものともせず、涼しい顔をしてエリクは話を続ける。
「実は私がこちらに来たのは、ライラ殿にお知らせしたいことがあったからです」
「……お知らせしたいことねえ。それは殿下からってことなのかしら?」
ライラの問いにエリクは力強く頷いた。それから彼は真面目な顔をして淡々と言った。
「侯爵閣下が王都に戻られます」
「────っえ?」
エリクの発言に、ライラは驚いて変な声が出てしまった。
「……ど、どうして今さら王都に戻るのよ。だって、王都はもう危ないって話じゃないのかしら? てっきりあの人はここで殿下のお手伝いをすると思っていたのだけれど……」
「いいえ。閣下はここには残られません」
「────っ!」
エリクの返答を聞いて、ライラは言葉に詰まってしまった。
「なので、もし閣下と話がしたいのであれば、しばらくその機会はなくなってしまうでしょう」
いかがいたしますか、と問われてライラは困惑してしまう。
まさかクロードが王都に向かうとは思ってもいなかった。てっきり、ここにとどまってヴィリの元で働くのだとばかり思っていた。