アヤの病室をあとにして、ライラはイルシアとファルと一緒に病院を出た。
すると、病院の敷地を出たところに、最近よく見る男がひっそりと立っていた。
「……いつからそこで待っていたの?」
「たまたまですよ。私も一応は兵士ですし、この病院が軍の施設だってわかっておられますよね?」
出会った途端にライラが嫌味ったらしく口を開いたので、軍服を着たエリクは苦笑いを浮かべている。
「あら、そうなの? 私の退院日を知っていて、てっきり監視でもしていらっしゃるのかと思ったわ」
「……私もあの場にいたのですよ? あなたのように検査をしにきただけかもしれないではないですか」
とぼけるエリクをライラはぎろりと睨みつける。
「嘘よ。だってあなたは検査入院すらしていないって聞いたわ。あんなに重症っぽく見えたのに、どういうことなの?」
「実はこれをお借りしていたのです」
そういってエリクが何かを取り出した。日の光が当たった途端、それがきらりと光る。
「……なんであなたが持っているの? それは私の短剣じゃない」
「もうあなたの元を離れたミスリルの短剣です」
エリクが意地悪そうにニヤリと笑う。
「マディス殿が自分の店においたままにしておくのはもったいない品だとお嘆きだったそうですよ。こういう良い物は誰かに使われていたほうが幸せなのだと……」
そこまで話して、エリクはファルに視線を向けた。
「ファルさんがあの日の前日に私のところまでいらっしゃって、これを預けてくださったのです。さすがにミスリルが使われている品を買えるだけの金は私にはありませんから」
そもそも値段がつけられませんが、とエリクは笑う。
すると、ファルがとぼけた調子で敬礼しながら口を開いた。
「デートのときはさすがに堂々と武器を持てませんから。その短剣なら小さくて隠し持つのにちょうどいいし、エリクさんなら使えるかなって思ったんです」
「だけどさ、ファルじゃ重くて持てなかったからな。俺が叩き起こされて、おっさんのところまで一緒に渡しに行ったんだぞ。感謝しろよな」
「エリクさんにお渡ししておいて、本当によかったですー」
ファルが機嫌よく笑いながら言うと、エリクは大きく頷いた。
「これは瘴気をはじく効果があるという噂は聞いておりましたが、本当に見事なものでした。おかげで私は無事ですしね」
おそらくアヤさんが無事だったのもこれのおかげでしょうと言いながら、エリクがファルに微笑みかける。
すると、ファルはいつか見たように親指を立てて得意げに胸を張った。