「…………………………売った、のか?」
「ああ、正確には売ったわけじゃないのかしら。新しい装備品と物々交換したのよね」
「……いや、売ったとか、物々交換とか。そんなことはどうでもいい……」
クロードの様子がおかしい。小刻みに身体を震わせて、どんどんと顔色が悪くなっていく。
「あ、あれは私が君のために……。あれを用意するのに、私がどれほどの時間と労力を……」
「あら、なによそれ。そんなに恩着せがましく言わないでちょうだい。私が欲しいって言ったから贈ってくれたものじゃないわよね?」
ライラはクロードの言葉にいらっとして吐き捨てるように言った。すると、クロードはその場に膝から崩れ落ちてしまう。
「貰った物を私がどうしようと自由でしょう。だってあなたに屋敷を追い出されてしまったから、無職になってしまったんだもの」
「…………べ、べつに追い出したわけじゃない」
「お金を稼がなきゃ生活できないのだから、金目の物を売ったりすることはしかたがないことでしょう?」
「……そんな、住む場所はきちんと用意してあって。金だって、生活に困るようなことは、なにも……」
クロードは何かをぼそぼそと話しているが、声が小さくて聞き取れない。
ライラは苛立ちが募り、地面をおもいきり蹴とばした。
「ああもう! いまさらそういう反応をするのが本当に嫌。言いたいことがあるならはっきりしなさいよ!」
ライラは怒気を含んだ声で叫んだ。ぎろりとクロードを睨みつけていると、彼は顔を上げてライラを見つめてきた。
クロードの表情は、想定外のことに衝撃を受けているということが伝わってくるもので、ライラはさらに苛立ってしまう。
──生涯を共に過ごそうと誓い合った相手から貰った物なんて、別れたあとにいつまでも持っていたいわけないじゃない。どうしてこの人はそんなこともわからないのかしら。
「あなたって本当に躓くことなく人生を歩んできたのね。なんでも思い通りになると思っていたら大間違いよ」
ライラはそう言っておもわず舌打ちをしてしまった。
すると、クロードの表情から感情が消えた。彼はそのまま膝を抱えてうずくまってしまう。
その後はもう抜け殻のようになってしまい、何も言わずに小さく固まっていた。