「犯人を捜している過程って、どうしてそんなことを調べる必要があったの? あの子に何の関係があって……」
当時、ライラは悲しみにくれながらも、我が子を殺害した犯人を捕まえるため、必死に動きまわっていた。
手がかりが何も掴めず、日に日に焦燥感が募っていくばかりだった。寝る間も惜しんで、食事をする時間すらもったいないと思い、あちこちを駆けずり回っていた。
憔悴しきった君をみていられない、そうクロードに止められるまでは──。
「あとは任せろって、あなたは言っていたじゃない! でも、私には何も話してくれなかったから」
てっきり犯人の手がかりを掴めていないのだと思っていた。
そばにいたのにあの子を守ることができなかった。だから何かをしていないと落ち着かなかった。
それなのに、屋敷から出るなときつくいいつけられた。その頃には指一つ動かす気力もなくなっていたから、大人しくクロードの言う通りにするしかなかった。
「何かを知っていたのなら、どうして私にそのことを黙っていたの?」
ライラはすっかり気が動転していた。イルシアから離れると、クロードに掴みかかっていた。
激しい痛みが身体を襲う。クロードは取り乱さない自信があるならイルシアから離れてもいいと言ったが、まだ駄目だった。
「もしかして、あなたは犯人が誰かわかっているの? 知っていたのに、ずっと私に隠していたの⁉」
どんなに女遊びをしようと、自分が蔑ろにされようと構わない。あの子のことだけは真剣に考えてくれていると思っていた。だからどんな扱いでも耐えることができていた。そう怒鳴りつけたかったが、痛みで言葉が続かなかった。
「…………なんでよ。どうしてなの…………?」
「君まで失いたくはなかった。それだけなんだ。私が問題を解決できれば、もう巻き込まれることはないと思ったんだ」
痛みに呻いていると、肩にクロードの手が置かれた。悔しいが、それでわかってしまった。
クロードの気の流れは酷く乱れている。彼も冷静ではない。怒りや悲しみといった感情を、理性でなんとか抑え込んでいる。
「…………それならそうと、言ってくれればよかっただけじゃない。言ってくれれば、私だって!」
「本当のことを言えば大人しくしていたか?」
肩に置かれた手に力が入る。
「君は察しがいい。私から何か手がかりを得ることができれば、そこから真実にたどり着いて飛び出して行ってしまう気がしたんだ」
「……大人しくしていられたかなんてわからないわ。でも、何もかも黙っていられるよりは、ずっとましだったと思うけど?」
ライラは肩に置かれたクロードの手を振り払った。身体の痛みはあるが、耐えられないほどではない。
クロードはすぐにライラの方へ手を伸ばしてきたが、睨みつけると大人しく引いた。
自分を避けていた理由がかろうじて理解できる話を聞けたが、納得ができるわけがない。
「犯人がどういった存在の者たちかはすぐにわかった。情報を提供してくれた方がいたから……。それが君をここで襲った連中だ」
クロードの言葉を聞いて、ライラは頭の中にこの場で出会った者の姿を思い浮かべた。
幼気な少女の姿をした化け物──。
「魔族があの子を襲う理由がわからないわ。どうしてそんな話になるのよ」
「あいつらは瘴気をその身に宿しても自我の保てる優秀な肉体を探している」
ライラは全身から血の気が引いていくのがわかった。寒気がして自分で自分の身体を抱きしめる。