「……っ悪い。話をする前に、誰か私に回復魔法をかけてくれないか?」
ライラがようやく覚悟を決めると、目の前にいるクロードが地面に両手をついて項垂れてしまった。
クロードは身に着けている軍服が赤く染まるほど出血している。意識を失わずにいることが不思議なくらいの大怪我をしているのだ。これまでは落ち着いた態度をしていたが、どうやら限界を迎えてしまったらしい。
「ほらな。もう殴らなくたってお前がボッコボコに痛めつけてんだから我慢しろよ」
「……まあ、そうね。息をしていることが奇跡って言えそうなほどボロボロだけれど、これって私がやったの?」
「うわ、覚えてねえのかよ」
「うーん。ぼんやり覚えているような?」
「やっぱりさっさと話を聞かせてもらったほうがいいじゃねえか」
ライラとイルシアが呻き声を上げているクロードの前で呑気に会話をしていると、ファルがこちらに駆けつけてきた。彼女は項垂れているクロードの顔を覗き込んでから、慌てて回復魔法を発動させた。
「……すまない。ご助力感謝する」
「いいえー。死なれたらライラさんが殺したことになってしまうからお助けしただけですので。なにもお気になさらずー」
ファルは回復魔法をかけ終えると、すぐにクロードに背を向けてライラとイルシアの元へやってきた。
すっかり怪我の治ったクロードはファルに向かって感謝の言葉をかけるが、彼女の態度はあまりに素っ気なかった。
「何を驚いた顔をしているのですか。あなたがライラさんにしてきたことを思えば、もう少し血を流したまま反省しておけとファルさんが思ってしまうのは仕方がありませんよ」
ファルの冷たい態度に唖然としてしまっていたクロードの元へ、マスターがやってきた。マスターは地面に膝をついたままのクロードを見下ろしながら、小ばかにしたように笑っている。
「……どうしてだ。私はライラの暴走を身体を張って止めたのだぞ。感謝されてもよいくらいではないか?」
「ライラさんが暴走したのは、これまでのあなたの行いのせいだからですよ」
その程度のこともお分かりになりませんか、とマスターは嫌味たっぷりにクロードへ問いかけた。
クロードはマスターに言われたことが衝撃だったのか、目を丸くしている。
「おや、酷い顔ですね。私はそんなにおかしいことを言いましたか?」
「おかしくは、ない。……だが、お前にそれを言われるとは思わなかっただけだ」
クロードの返事を聞いたマスターが目を細めてふっと笑った。
その表情をみたクロードは、顔をしかめて腕を組む。彼は何も言い返せないらしく、黙ったままマスターを睨んでいる。
「…………ねえ。怪我が治ったのだから、そろそろ話はできるのかしら?」
ライラが声をかけると、クロードはびくりと大きく肩を震わせた。彼は慌てて腕をほどいてマスターから視線をそらすと、ライラに優しく微笑みかけてくる。
クロードのその態度に、ライラはすっかり脱力してしまった。