ライラはしっかりとクロードを見つめた。
今さらすぎるのだが、クロードの前でどんな態度をしていればよいのかわからない。ひとまずは神妙な顔をしてみたが、イルシアとひっついている状態では取り繕ってもあまり意味がない気がしていた。
クロードはそんなライラの心情を見透かしているかのように、こちらを見つめながら頬を綻ばせた。彼から穏やかな視線を向けられたのは久しぶりだ。いつ以来かと考えてみたが、すぐには思い出せなかった。
「……ねえイル君。この人に目の前でへらへらと笑われると無性に腹が立つのだけど、一発くらい殴ってもいいわよね?」
ライラは居心地が悪くなり、クロードから視線をそらした。そのまま抱き着いているイルシアに向かってぶっきらぼうに声をかける。
「お前なあ。もう殴る以上のことをしてんだからやめておけって。あまり面倒を起こすなよ」
「面倒を起こすつもりなんてないわ。でもね、今までさんざん私から逃げ回っていたくせにって、どうしても思ってしまうのよね」
「俺と会う前の話をされてもわからねえよ。言い訳なんていいから、さっさと話をして区切りをつけろって。話をきかせてもらおうって、お前がいま言ったばかりじゃねえか」
「……それは、そうなのだけど……」
イルシアに呆れたように言われてしまい、ライラは言葉に詰まってしまう。
王都を出る前はあんなに話をしたいと思っていた相手のはずなのに、いざ話ができるとなると素直になれない。
──話がしたくないわけじゃないのに……。言葉を交わすことを心から望んでいたはずなのに、どうしてなのかしらね。
ライラはもう一度イルシアの頭に手を置いて心を落ち着かせる。ゆっくりと深呼吸をしてから、クロードに向き直った。