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第10話

「そうね。私は強いもの」


 ライラはニコリと微笑みを浮かべると、クロードをじっと見つめた。


「そんな風に言うのだから、私がうっかりあなたを傷つけてしまっても、文句はないのよねえ?」


 ライラは笑顔のままクロードに向かって手を伸ばした。

 もし彼がこの手を取ってくれたら少しは救われるのではないかと、心のどこかで思っていたのかもしれない。


「………………君のそんな姿は、見たくなかったな」


 クロードは手にしている剣から手を離さなかった。ライラを見つめながら顔を歪める。


「ふふふふふふふふ。とってもおもしろいことを言うのねえ」


 ライラは伸ばした手に力を入れた。

 もうクロードと共に過ごすことはできない。そんなことは分かりきっていたのに、どうして彼が自分の手を取るかもしれないなどと期待してしまったのだろうか。


「……そうね。そんなに見たくなかったのなら、もう私の姿なんて見られないようにしてあげればいいのかしら?」


「……………………………………………………」


 クロードの戦い方はよく知っている。一度は一生を共にしようと誓った仲だ。

 些細な癖だってわかっている。


 しかし、それは向こうも同じことだ。

 もし互いが本気で戦えばタダでは済まない。それをわかっていて彼は剣をおろさないのだ。


「…………本気で殺すつもりでいかないと、こっちが危ないわねぇ」


「そうだな。私もそのつもりでやる」


 どちらが先に動いたのかわからない。

 おそらくほぼ同時だろう。


「──本当に、本気なのね」


「──君の方こそな」


 クロードが一気に間合いを詰めてきた。

 ライラは咄嗟に瘴気で壁をつくり彼の攻撃を受け止めた。


「そういえば、本気で戦ったことはなかったわね」


「そんな必要がなかったからな。今だって本当は戦いたくはないさ」


「なら、引いてくれていいのよ?」


「それは無理だ。このまま君を放置することはできない」


 クロードが剣を構え直した。ライラはその隙に一気に背後に引いた。

 彼の剣の間合いの中で戦い続けるのは厳しい。距離を取って遠くから狙いを定めるべきだ。


 ライラは手の先に力を集中させる。すると、手の先に黒い球体があらわれた。球体はすぐに弓へと姿を変える。

 それを見たクロードは、ライラとの間合いを詰めようと足に力を入れる。


「残念、そう簡単に近づけさせるわけにはいかないわよ」


 ライラはクロードを取り囲むように、周辺の地面から瘴気を浮かび上がらせる。

 瘴気はもぞもぞと大きく膨れ上がって、クロードの身体を拘束しようと一斉に襲いかかった。


「便利な使い方ができるのねえ。遠隔操作も簡単で助かるわ」


 クロードは、自身を拘束しようとする瘴気を断ち切りながら近づいてくる。

 ライラは、瘴気を相手にクロードがもたついている間に、作り上げた弓で矢を射った。

 ライラの放った矢は真っすぐにクロードの元へ向かい、彼の身体を貫こうする。


 それに気が付いたクロードは、大きくその場から後ろへ引いた。

 彼は自分を狙って飛んできた矢を、周辺でうごめいている瘴気ごと、風をまとった剣でおもいきり吹き飛ばしてしまった。


「まあ、大胆ね。でも、いきなりそんなに力を使って大丈夫かしら?」


「……問題ない。君の方こそ、新しい力を過信しすぎないようにな」

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