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第9話




 イルシアの目の前に、誰かが立ちふさがった。


「動け少年。殺されるぞ」


 イルシアに襲いかかった瘴気の塊は、あっさりと浄化されて消えてしまった。


「戦う気がないなら下がっていろ。ライラの相手は私がする」


 イルシアを救ったのはクロードだった。彼は危険に晒されていたイルシアの前まで瞬時に移動してくると、瘴気を全て切り払ってしまった。


「あら、びっくりしたわ。やっと私の相手をしてくれる気になったのねえ」


「…………………………………………」


「ふーん、やっぱり私と話す気はないのね。別にそんなのはいつものことだから、かまわないわよ」


 ライラはクロードに微笑みを向ける。しかし、彼がライラに向けているのは剣先だった。

 ぎらりと光る剣を見て、ほんの少しだけ懐かしい気持ちになる。

 クロードが持つのは侯爵家に伝わる名剣だ。それが自分に向けられる日がやってくるなんて、ライラは想像したことがなかった。そう考えた瞬間、懐かしい気持ちが消えてなくなった。


「ま、待ってくれよ!」


 イルシアが剣を構えるクロードの背にむかって、必死に声をかけている。


「だ、だってさ、あいつの瘴気を浄化しちまったら……。あいつの身体は無事でいられるのか?」


 イルシアの叫びに、ほんの少しだけクロードの表情が曇った。


「ライラが死ぬなんて俺は嫌だよ! だからさ、ちょっと待ってくれよ! 少し落ち着いて考えようぜ?」


「………………………………彼女は強い人だから、きっと大丈夫さ」


 必死に訴えるイルシアに、クロードが言った。

 その言葉にライラは気が狂いそうなくらい腹が立った。

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