イルシアの目の前に、誰かが立ちふさがった。
「動け少年。殺されるぞ」
イルシアに襲いかかった瘴気の塊は、あっさりと浄化されて消えてしまった。
「戦う気がないなら下がっていろ。ライラの相手は私がする」
イルシアを救ったのはクロードだった。彼は危険に晒されていたイルシアの前まで瞬時に移動してくると、瘴気を全て切り払ってしまった。
「あら、びっくりしたわ。やっと私の相手をしてくれる気になったのねえ」
「…………………………………………」
「ふーん、やっぱり私と話す気はないのね。別にそんなのはいつものことだから、かまわないわよ」
ライラはクロードに微笑みを向ける。しかし、彼がライラに向けているのは剣先だった。
ぎらりと光る剣を見て、ほんの少しだけ懐かしい気持ちになる。
クロードが持つのは侯爵家に伝わる名剣だ。それが自分に向けられる日がやってくるなんて、ライラは想像したことがなかった。そう考えた瞬間、懐かしい気持ちが消えてなくなった。
「ま、待ってくれよ!」
イルシアが剣を構えるクロードの背にむかって、必死に声をかけている。
「だ、だってさ、あいつの瘴気を浄化しちまったら……。あいつの身体は無事でいられるのか?」
イルシアの叫びに、ほんの少しだけクロードの表情が曇った。
「ライラが死ぬなんて俺は嫌だよ! だからさ、ちょっと待ってくれよ! 少し落ち着いて考えようぜ?」
「………………………………彼女は強い人だから、きっと大丈夫さ」
必死に訴えるイルシアに、クロードが言った。
その言葉にライラは気が狂いそうなくらい腹が立った。