クロードと視線が合った。
しかし、彼はすぐさまライラから視線をそらしてしまう。
それを見て、心の中に沸き上がっていた全ての感情がすっと冷めていくのを感じた。
「……ああ、そうね。そうだったわね。あなたはそういう人だったわねえ……」
ライラはクロードの横顔を見つめながらぶつぶつとぼやく。そこへマスターがやってきて、ライラに声をかけてきた。
「よかった、ご無事のようで何よりです」
マスターはそう言ってからすぐに自分の言葉を訂正した。彼はライラの視線の先を見て苦笑いをする。
「……いえ、ご無事ではないようですね」
「私は無事よ。何も問題ないわ」
「彼が来ることは伝えてあったでしょう。そんなにお嫌でしたか?」
「そんなことはないわ。なんだかね、今はとっても清々しい気持ちなの」
ライラがマスターに満面の笑みを向けると、彼はすぐさま気味が悪そうに顔を歪めた。
「あら何よその顔。彼の姿を見たおかげでなんだかすっきりしたの。本当よ? ずっと心の中にあったつかえが、綺麗さっぱり取れた気分なの」
ふふふとライラが笑うと、マスターがその場から一歩うしろに引いた。
「あらなあに、その反応? どうして離れていくのかしらねえ……」
マスターが後ずさっていく。彼は信じられないものを見たかのような表情をしている。
「おい、どうした?」
異変を察知したイルシアが、ライラとマスターの元へやってくる。
イルシアはこちらに着くなり、慌てて槍を構えた。
「……まあ、イルシア君まで酷いわね。どうしてそんなものを私に向ける必要があるのよ」
「お前、気がついていないのか?」
イルシアの持つ槍の先がライラに向けられている。
「お前からさっきまでいた魔族と同じ気配がする」
イルシアがそう言った途端、周囲にいた者たちがざわついた。
ライラは周囲の反応を気にもとめず、向けられている槍の先端をじっと見つめていた。
「それを私に向けないでほしいわ。……ねえ、私のことを拒絶しているの? すごく悲しい気持ちになるわ」
「嘘つけ。悲しいって奴の顔じゃない」
「ふふふふふ、そうね。……………………すっごくむかついているわ」
ライラは少女がしていたように人差し指を立てた。
そこへ意識を集中すると、身体の中に入り込んでいた瘴気が指先に集まってくる。
「……馬鹿ライラ。てめえがそんなになっちまったらどうしたらいいんだよ」
目の前で嘆いているイルシアを無視して、ライラは指を動かしていた。自分の意思で瘴気の量や形が操れることに気がついた。
「……へえ、なかなか便利じゃない」
ライラはそのままイルシアに向かって手を伸ばした。
出現させていた瘴気の塊が大きく膨れ上がる。その瘴気の塊が、イルシアに向かって襲いかかっていく。
イルシアは槍を構えたまま、その場から一歩も動かなかった。