──目を離したのは、本当に少しだけだったのに……。
そのほんのわずかな時間を、これほど後悔することになるとは思わなかった。
なるべく自分の手で育てたかった。
自分が親の愛情に飢えて育ったから、我が子にはそうなって欲しくないと思った。それだけだった。
周囲は乳母に任せるべきだと言っていたけれど、どうしても子育てには自分が関わりたかった。
意地になっていたと思う。
乳母には頼らないと宣言した手前、許容量を超えているとは言い出しにくかった。
ただでさえ貴族としての生活に慣れなくて戸惑うことが多かったのに、そこへ子育てが加われば疲れるのなんて当たり前だった。
反省することはたくさんある。後悔してもしきれない。
「正確には殺していないよ。僕はね、そうしてみたらって提案しただけだから」
「……そう。それはね、殺したっていうのと同じなのよ」
そう口にした途端、周囲の消えかかっていた瘴気がぶわりと舞い上がってライラの周囲に集まってきた。
そのまま瘴気の渦がライラの身体を包み込もうとする。
ライラは慌てて瘴気が身体に触れないように振り払おうとする。
しかし、振り払おうとすればするほど、余計に身体にまとわりついてくる。
まるで、蜘蛛の糸が絡みついてくるようだった。
「それはね、負の感情に反応するんだよ。それだけ、憎い、殺してやるって物騒なことを考えていたら、そりゃまとわりついて離れないよねえ」
「──っ、くそ! 何よこれ、離れない!」
あっという間に目の前が真っ暗になった。
それと同時に、心の底からどす黒い感情が溢れてくる。
「……僕が君に要求することは一つだけだ。僕はね、君に壊れて欲しいんだよ……」
暗闇の中、どこからともなく少女の囁き声が聞こえた。