「どうして僕がわざわざこんな姿をしていると思う?」
少女は可愛らしく首を傾げると、うるうると目を潤ませながら上目遣いで見つめてきた。本当に見た目だけなら愛らしい少女だ。この姿に騙されてしまう者は多いだろう。
だが、ライラはもう少女が見た目の通りの存在ではないことを、十分に理解している。
少女のもったいぶった言い方に、ライラの頭の中に様々な考えが浮かび上がっては、すぐに消えていく。
「ふふふふふ、言ったよねえ? 僕は君のことは知っているってさあ……」
知っている?
私のことを知っているって、どういうことなの?
知っているってまさか! でも、そんなことはないはず、よね?
どうして?
そんなそんなことはありえないわよね⁉︎
どうして? なぜ? そんなことを私に言うの?
ライラの頭の中を、大量の疑問符が飛び交う。それと同時に、最低な可能性が浮かんできてしまった。ライラの身体から、血の気が引いていく。
「…………ねえ、どうしてそんなに辛そうな顔をしているの? ねえ、どうしてなの
少女に何と言われているのか、すぐには理解できなかった。
きっと理解したくなったのかもしれない。
「お母さま」と呼びかけられて、頭の中が真っ白になった。
しかし、次の瞬間には怒りの感情が沸きあがってきた。
「………………ほらね。やっぱりできないんだあ。ふふふふふ」
激情に支配されたライラは、目の前の少女に掴みかかろうとした。
──絶対に殺してやる。
そう勢い勇んで首を絞めてやろうと思っていたのだが、幼い少女に対してそんなことはできなかった。
「本当に人間って面白いよねえ。目の前にいるのが怪しい奴ってわかっているのに、子供の姿をしているだけで途端に手出しができなくなるんだからさあ!」
伸ばした手が少女の目の前で止まる。
ライラの中にやり場のない感情が溢れてきてどうにかなりそうにだった。
「……っこの外道……」
そう口に出すだけで精一杯だった。
「あははははははははははははははは!」
少女が大きく口を開けて馬鹿にしたように笑っている。
耳ざわりな笑い声に、伸ばした手を固く握りしめた。
「あーあ。子供を誘拐して殺してしまえば、君の心に一生立ち直ることのできない傷を負わせられたと思ったのになあ。どうしてこんなに元気になってしまったの?」
少女の言葉に息を呑んだ。
質問の答えを待っている少女をぎっと睨みつける。激しく沸き起こる感情を抑え込むために、ライラは大きく深呼吸をした。
「…………そうよ。人間ってね、面白いのよ。どんなに辛くて悲しいことがあっても、立ち直ることができるの」
「そうなの? ただ君はあんまり自分の子供のことが好きじゃなかっただけじゃない?」
「…………残念ね。きっと私とあなたじゃ一生分かり合えないわ」
「人間の短い生涯で語られてもねえ。子供なんてさっさともう一回つくればよかったのにさあ」
「もう黙って! あなたの声を聞いているだけでどうにかなりそうよ」
ライラは自分の頭を抱え込んで力の限りに叫んだ。
「アンタが殺したの⁉︎」