「これが魔族の使い魔って奴なのか? 話は聞いたけどさ、これで死なないとかやばい奴らだな」
イルシアは、近づいてきたライラを横目でちらりと確認をしてから、吐き捨てるように言った。
「あら、イルシア君も魔族について誰かに話を聞いていたのね」
「ついさっきマスターからな。半信半疑だったけど、自分の目で見たら信じるしかないな」
「マスターから? ふーん、そうなのね。私も半信半疑だったけど、これを見たら信じるしかないわよね」
ライラはイルシアに返事をしつつ、マスターが魔族のことついて彼に話した意味を考えようとする。
──冒険者組合に関係者を集めるってエリクさんは言っていたし、そりゃマスターは立ち会うのだろうけど……。関係者にイルシア君が含まれているとは聞いていたかしらねえ。
ライラが考え込んでいると、イルシアが唇を尖らせながら抗議をしてきた。
「つかさ、お前こそ誰にいつ聞いたんだよ! さっきはマスターの執務室に来てなかったじゃん。俺はお前も来るって聞いてたから、慌てて行ったのにさ!」
「……ああ、それね。ほら、この問題が発生してしまったから、後回しになってしまったのよね」
ライラはエリクとの会話を思い出そうと、自分の記憶をたどっていた。しかし、アヤのことでかっとしてしまっていた為、すぐに思い出せなかった。
「……えっと、どうだったかしらねえ?」
ライラは今日の出来事を一から順に思い返そうとする。しかし、エセリンドはそんな暇を与えてはくれなかった。
ライラがイルシアと話をしている間にも、エセリンドの身体の穴からどんどんと瘴気があふれ出てきていた。
どうやら彼女は負った傷を修復しようとしているらしい。
「──ッチ! 回復されたら面倒だ。マスターはできたら捕まえろって言っていたけど、これは無理だろ?」
「……できたらって言っていたのなら、これは仕方ないのじゃないかしら」
ライラの返事を聞いて、イルシアはすぐに槍を構えた。
エセリンドは傷口を修復しながら、自分に向かって槍を構えているイルシアを真っ直ぐに睨みつけている。
二人の間に一触即発の空気が流れる。
今の自分は冷静ではないと自覚していたライラは、イルシアの様子を見守ることにした。
二人のうちどちらが先に動くか、じっと見つめているとエセリンドが目を見開いた。
いよいよ襲い掛かってくるのかとライラは身構えたが、彼女はさっと顔色を変えてガタガタと震え出す。
何か様子がおかしい、ライラがそう思っていたときに背後から声が聞こえた。