「もしアンタが大人しく降参するというのなら、ガキだけは五体満足で返してあげるわ」
ライラの耳元でエセリンドの声がした。
「────────────っ⁉」
ライラは驚いて背後を振り返ったが、そこには誰もいない。それなのに、どこからともなく妖しく笑う声がする。
ライラはすぐさま身構えて、周囲を見渡した。薄暗い森の中、目を凝らして注意深く観察してみるが、声の主であるエセリンドの姿はどこにもない。
「ふふふふふふふ。あらまあ、そんなに慌ててどうしたのかしら?」
はっきりと声は聞こえるのに、どうしてもエセリンドの姿が見つけられない。彼女の姿の代わりにあるのは、周辺一帯に漂う瘴気の黒い霧だけだ。その瘴気の霧からエセリンドの気配が漂ってくる。
「…………これは、いったいどういうカラクリなのかしらね?」
「ふふふふふ、そんなことをアンタに教える必要はないわ。どうせアンタに説明したって意味がないもの」
「へえ、そうなの。もし降参したら、私はどうなってしまうのかしらねえ?」
「私ね、美しい
ねっとりとした気持ちの悪い声が耳に届く。ライラは吐き気がしそうになるのを堪えながら、エセリンドの言葉に耳を傾ける。
「そこの男たちはね、アンタに恨みがあるから操りやすかっただけなの。本当は醜い者なんていらないのよね」
「……ふうん、操るねえ。私はあいつらのように自分の身体をもてあそばれるのは嫌だわ」
ライラはそう答えながら、森の中に視線を移した。森の暗闇の中に小さな光が浮かび上がったのだ。
その光があっという間に大きくなって、こちらに勢いよく向かってくる。
ライラはその光を見つめながらニヤリと笑った。
「来るのが遅いわよ!」
ライラは近づいてきた光に向かって叫んだ。
「何だよその態度は! 助けに来て欲しいってんなら、ちゃんと居場所を伝えておけよな。探すの面倒だったんだぞ!」
光の正体は全身に炎を纏っているイルシアだった。
イルシアはライラの元へ到着するなり、文句を口にする。
しかし、その文句を言い終わるよりも先に、周囲に漂っていた瘴気の霧を炎で燃やしてしまった。