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第11話

「もしアンタが大人しく降参するというのなら、ガキだけは五体満足で返してあげるわ」


 ライラの耳元でエセリンドの声がした。


「────────────っ⁉」


 ライラは驚いて背後を振り返ったが、そこには誰もいない。それなのに、どこからともなく妖しく笑う声がする。

 ライラはすぐさま身構えて、周囲を見渡した。薄暗い森の中、目を凝らして注意深く観察してみるが、声の主であるエセリンドの姿はどこにもない。


「ふふふふふふふ。あらまあ、そんなに慌ててどうしたのかしら?」


 はっきりと声は聞こえるのに、どうしてもエセリンドの姿が見つけられない。彼女の姿の代わりにあるのは、周辺一帯に漂う瘴気の黒い霧だけだ。その瘴気の霧からエセリンドの気配が漂ってくる。


「…………これは、いったいどういうカラクリなのかしらね?」


「ふふふふふ、そんなことをアンタに教える必要はないわ。どうせアンタに説明したって意味がないもの」


「へえ、そうなの。もし降参したら、私はどうなってしまうのかしらねえ?」


「私ね、美しいしもべが欲しいのよ」


 ねっとりとした気持ちの悪い声が耳に届く。ライラは吐き気がしそうになるのを堪えながら、エセリンドの言葉に耳を傾ける。


「そこの男たちはね、アンタに恨みがあるから操りやすかっただけなの。本当は醜い者なんていらないのよね」


「……ふうん、操るねえ。私はあいつらのように自分の身体をもてあそばれるのは嫌だわ」


 ライラはそう答えながら、森の中に視線を移した。森の暗闇の中に小さな光が浮かび上がったのだ。

 その光があっという間に大きくなって、こちらに勢いよく向かってくる。

 ライラはその光を見つめながらニヤリと笑った。


「来るのが遅いわよ!」


 ライラは近づいてきた光に向かって叫んだ。


「何だよその態度は! 助けに来て欲しいってんなら、ちゃんと居場所を伝えておけよな。探すの面倒だったんだぞ!」


 光の正体は全身に炎を纏っているイルシアだった。

 イルシアはライラの元へ到着するなり、文句を口にする。

 しかし、その文句を言い終わるよりも先に、周囲に漂っていた瘴気の霧を炎で燃やしてしまった。

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